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(4)進まぬ病院の施設整備 災害医療のシステムはできた
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 命を救うべき病院が、大災害時に十分機能しない。震災は、その実態をも露呈した。

 神戸市長田区の市立西市民病院。旧館が全壊し、押しぶされた病棟で患者一人が死亡した。当時、当直医だった郡山健治内科部長(55)は、必死の思いで救命治療に当たった、あの時を振り返った。

 暗やみの中で、負傷者がうごめいていた。懐中電灯の光だけを頼りに、麻酔なしで縫合処置を行った。水は出ない。折れた骨を固定する添え木も尽きていた。

 「あの経験は決して忘れない」。郡山さんは、最新の防災設備を整え、来春完成する病院への期待と、自らの意志を重ね合わせた。

 

 あれから、医療機関は防災にどう取り組んだのか。

 兵庫県で医療行政を担当する島田隆志医療課主幹は、震災の二カ月後、被災十市十町の病院と診療所計三千二百カ所を対象に行ったアンケートを示した。

 調査データが災害医療システムをつくる資料になっていると話した。例えば、患者の転送を挙げる。病院の場合、「転送先を確保できなかった」(七・六%)、「確保できたが現場の混乱で難しかった」(六七・一%)。

 こうしたアンケート結果を踏まえ、震災の翌年十二月に構築されたのが「広域災害救急医療情報システム」だ。兵庫県内約二百九十カ所の医療機関と消防、県庁、保健所をつなぎ、有事の際、被災の有無や混雑状況をいち早くキャッチ、病院に転送先などの情報を提供する仕組みである。

 ほかにも、医薬品の流通備蓄体制、自衛隊への要請を含めたヘリによる患者搬送、人手不足の病院への応援態勢の構築など、改善した項目は数多くある。教訓は、着実に生きているように見える。

 

 だが、災害医療の第一人者、鵜飼卓・兵庫県立西宮病院長は「確かに病院などをつなぐシステムは整ったが、建物の耐震化や水の備蓄タンク設置など、病院そのものの災害対応は、あまり進んでいないのではないか」と疑問を投げかけてきた。同じ声は、被災地の多くの病院からも聞いた。

 全国公私病院連盟の一九九七年の調査によると、全国約千百五十病院のうち七〇%が赤字。兵庫県立の十病院も、病床稼働率は九〇%近くに達するが、赤字を計上している。国の医療費削減策による締め付けが響いているのだという。

 病院の災害対策で厚生省が設ける補助メニューは、建物の耐震化やヘリポート建設に対して、国と県で三分の二を補助する制度一つだけ。対象も、各都道府県の災害拠点病院に限られている。県内では、神戸市立中央市民病院と兵庫医大病院など十二カ所。それ以外の県内一万二千カ所は、自力で整備しなければならない。

 「苦しい運営で、防災まで手が回らない」。訪ねた病院で、よく耳にした言葉だ。

 

 先のアンケートによると、当時、多くの病院が災害対策の大切さを痛感した。耐震施設の整備では五二・五%が思案中と答え、医薬品の備蓄は六七・一%が検討中だった。その危機意識は震災後、どこまで現実化されたのか。実態は、県も把握していない。

 「防災対策は、病院に余裕がなければできない。日本社会が、病院に余裕を認めるようにならないと、真の対策は進まない」
 鵜飼院長が指摘した。

1999/9/21
 

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