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 月に十四、五件あった洋服の注文は数件に減った。「採算にはほど遠い」。神戸市灘区友田町で紳士服店を三十年近く営む吉本義一(60)は、ため息をつく。住居兼店舗を補修した借金の返済も楽ではない。その店の目の前で、道路の復旧工事が砂ぼこりを立てて進む。「ひび割れはあっても十分走れた道。違うカネの使い方もあるやろうに」

 まちの再建と生活の再建。この落差を訴える被災者は多い。着々と再建される道路や港…。それを横目に、不安をぬぐえない日々。

 五兆七千億円。兵庫県の「緊急復興三カ年計画」に基づき、九四、九五、九六年度に、被災市町に投じられた都市基盤整備費の総額だ。

 道路や港など「復旧分」は一兆五千億円。予算ベースの進ちょく率は一〇〇%に達した。区画整理事業などを含む「復興分」は四兆二千億円で七二%だが、県土木部は「九七年度で一〇〇%に近づく」と話す。

 「国には格段の支援をいただいた」。神戸市道路部管理課長の奥野耕三は、国の支援の「手厚さ」を否定しない。舗装の陥没、亀裂、路面のうねり。被害は千三十四カ所、延長六百九十一キロに及んだ。

 しかも、通常の災害なら三分の二の国の補助率は、激甚災害の指定で九一・八%にもなった。

 同市が管理する道路の災害復旧工事は、生活道路を含め、三月、ほぼ完了する。

 この都市基盤整備をはじめ、国が被災地に注いだ震災対策費の総額は、九六年度補正を含め三兆九千五百億円。神戸市の九七年度一般会計予算のざっと四倍だ。

 巨額の財政支出。にもかかわらず残る深刻な生活不安。長崎大教授の宮入興一(財政学)は「国はできうる措置をした」と、一定の評価をしながらも、「補助金を通じた旧来型の対応にとどまり、財源の豊かな”公共施設復旧主義”に傾いた」と、中央集権とタテ割り行政の弊害を指摘する。

 震災直後、県知事・貝原俊民は、視察に訪れる大臣らに訴え続けた。「地元主導の復興を目指したい。財源を保障する新たな枠組みを考えられないか」。求めたのは、自由裁量で使える包括的な復興資金である。震災の一週間後、当時の震災対策相・小里貞利は言った。「当然のこと。閣議でも話題になった」。しかし、実現はしなかった。「中央集権が、地域の実情に合った自治体の復旧復興策を妨げた」と宮入も語る。

 自治体の財政は枯渇し、国に頼る。しかし、国のメニューにない施策の展開は、カネと制度で制約を受ける。被災者と向き合う自治体のジレンマである。

 「震災は未曾有(みぞう)の都市災害。たとえ五年でも神戸の税収を自由に使いたい」。神戸市幹部は、企業関係者が集まる会合でこう漏らしたことがある。

 九五年度の神戸市内の全税収は一兆三千億円。内訳は国税六五%、県税一六%、市税一九%。被災地でも、税の大半を国が吸い上げ、省庁のフィルターを通じて自治体に再配分する構図は変わらない。

 「自治体に主導権があれば、被災者支援も違った方法を考えられたはず」と同幹部。震災が問うた国の仕組みそのものの不備。改善策は、まだ出されていない。(敬称略)

(柴田 大造)

1997/2/23
 

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