熊野観心十界図(江戸時代、兵庫県立歴史博物館蔵)
熊野観心十界図(江戸時代、兵庫県立歴史博物館蔵)

■中世絵画が専門 藁科宥美学芸員

 皆さんは「あの世」と聞いて、どんなところを想像しますか。当館に所蔵されている「熊野観心十界図(かんしんじっかいず)」は、江戸時代の六道絵(ろくどうえ)を代表する作品の一つで、中央の「心」という文字から結ばれる十の世界(六道=地獄、餓鬼(がき)、畜生、阿(あ)修(しゅ)羅(ら)、人、天、四聖(ししょう)=声聞(しょうもん)、縁覚(えんがく)、菩薩(ぼさつ)、仏)や施餓鬼(せがき)供養、そしてさまざまな地獄の責め苦などが描かれています。この絵画は熊野比丘尼(びくに)と呼ばれる女性の宗教者が熊野への参詣を促す宗教活動の際に絵解きとして用いていました。

 六道思想が広く伝わったことには、源信(げんしん)が書いた「往生要集」が大きく影響しています。「往生要集」はさまざまな経典や論書から極楽往生に関する内容をまとめたもので、浄土教思想の基礎となりました。1052(永承7)年を世界の滅亡と考える末法思想が広がり、死後に極楽浄土への往生を願う風潮が高まったことにより、浄土教が広まったとされています。このような時代背景を持つのが、あの世(六道世界)を描いた「六道絵」です。さて、あの世への行き方はどのようなものでしょうか。