合成繊維大手「帝人」出身の長島徹さん(81)=芦屋市=は、1965年に同社へ入った後、国内勤務のほか、米国留学やメキシコ、フィリピン、スペインでの勤務も経験した。後に社長に任命されたのは「環境の変化に対するストレス耐性が身についていたからではないか」と振り返る。
会社勤めをしている時期は「対局する相手がいないから、NHKの番組を見るくらい」で囲碁から離れていたが、社長退任後、ゴルフ仲間と囲碁を打ち始めたことがきっかけで再び熱中することに。現在は、この対局が行われた兵庫倶楽部(くらぶ)(神戸市中央区)の囲碁サークルなどで実戦と勉強を重ねている。
吉田美香八段(同市)との4子局は、いったん局面が落ち着いたところで吉田八段が実戦譜白81と2線へハネ継ぐ。「黒から83へハネツいだ場合と比べると出入りに大きな差があるので、こういう場所は大切にしたいですね」と吉田八段。
吉田八段が白85、87と上辺を収まった場面で、黒88は「打たなくてもよかった手」。この場面では参考図1黒1~5と大きな場所へ先着し続ければ黒が優勢を築くことができ、吉田八段は「けっこうな左うちわだったはずです」と指摘する。
「それが置き碁の得なんですね」と長島さん。吉田八段は「舞い上がらずに冷静になれるかどうかが大切」と下手(したて)の心構えについて語り「黒88と打っていただいたので、私は少し気楽になりました」と打ち明ける。
黒88では、参考図1の黒1とともに、参考図2の黒1と左下を追及し、白2に対して黒3とハネて小さく生かす手も有力だった。
局面は拮抗(きっこう)したまま終盤戦へ入ったが、終局後、吉田八段からいくつかアドバイスがあった。
①黒100では左上の三々に先着しておけば、後に荒らされることがなかった②白103に対しては、すぐに黒106へ押さえるほうがよかった③白113に対しては実戦のように遮るのではなく、黒118、白116と渡らせたほうが被害は小さかった-。
また、黒124と割り込んだ手では、参考図3黒1ハサミツケから黒9と切る「レベルの高い手」を紹介。白10から12と切っても、黒13で白を取ることができる。長島さんは、一つ一つの説明を丁寧に聞き、疑問があれば質問で返す。
実戦、長島さんはいくつかチャンスを逃したものの、最後は1目勝ちし、吉田八段は「4段の実力はありますね」と太鼓判を押した。長島さんは勝利を喜び「これからも着実に成長し、まずは5段を、時間をかけて6段も狙いたい」と次の目標を語った。
(井原尚基)
170手まで、以下略。黒1目勝ち。
◇この連載は今回で終了します。
■吉田美香八段監修