経済小説の迫真 同時代の光と影
<経済小説の迫真 同時代の光と影>(5)車谷長吉著「灘の男」 土地に漲る積極進取の気風
つまるところ人間が描けているかどうか。これで作品の成否が決まるのは文学のジャンルを問わず共通している。世間に知られる経済小説とはおよそ対極にある私小説の分野で名をなした作家車谷長吉(ちょうきつ)が聞き書き小説として新境地を開いた本作品も、取材や風土の描写が行き届いているからこそ、良質の経済小説として読み取れる。
土地の奥深いところに流れる名もなき人々のエネルギーを浮かび上がらせたところに、作家の尋常ならざる感受性を感じる。経済社会の地域的独自性と多様性、共同体の個性に目を凝らすと時代を切り開く起業家精神が見えてくる。飾磨生まれの作家が播州弁たっぷりで語る播磨経済史伝として本書は光を放つ。
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