神戸新聞NEXT

 トランプ米大統領が年明け早々の3日、南米ベネズエラへの軍事攻撃に踏み切り、マドゥロ大統領を拘束した。次期政権への移行まで「米国が運営する」と表明し、ベネズエラ側が協力しなければ再攻撃する用意があるとした。

 米側は麻薬密輸に関与したとして起訴したマドゥロ氏を逮捕するための「法執行」を主張する。しかし、圧倒的な軍事力を背景に綿密に練られた今回の大規模攻撃は、他国への武力行使にほかならず国際法違反の疑いが濃厚だ。一国の元首を力ずくで排除し、政権運営に介入する行為は主権の侵害に当たる。法の支配による国際秩序を崩壊に導きかねない米国の暴挙を、強く非難する。

 国連憲章は「武力による威嚇または武力行使」を原則として禁止する。武力攻撃を受け、自衛権を行使する場合を除き、他国への軍事行動には安全保障理事会の承認が必要と定めている。

 トランプ政権は既に「麻薬密輸船」の取り締まりと称してカリブ海などベネズエラ近海に軍を投入し、100人以上を殺害した。国内外から過剰攻撃が指摘される中、国連の承認も米議会への事前通知もないまま、地上攻撃、さらに大統領の拘束へと事態をエスカレートさせた。

 米国内は長引く物価高などで国民の不満が広まり、トランプ氏の支持率は低迷している。「麻薬テロ」の首謀者としてマドゥロ氏の排除を強行し、11月の中間選挙に向けて批判の矛先をそらす狙いがあるとすれば身勝手も甚だしい。

 反米を旗印に独裁色を強めてきたマドゥロ氏に問題があったのは確かだ。2024年の大統領選は不正が疑われ、日本を含む先進7カ国(G7)は「民主主義上の正統性」を認めていない。とはいえ、体制転覆を企てた一方的な軍事攻撃を正当化する理由にはならない。

 背景には、国際法を無視してでも世界最大の埋蔵量を誇るベネズエラの石油利権を手中に収めようとするトランプ氏の思惑が垣間見える。ベネズエラの民主化への関心は薄く、混乱は当面収まりそうにない。

 国際社会が大国の「力による現状変更」を黙認すれば、ウクライナ侵攻を続けるロシアや、台湾の武力統一の可能性を排除しない中国を勢いづかせる恐れがある。国連のグテレス事務総長が声明で「危険な前例になる」と警告した意味は重い。

 ところが欧州諸国は、平和的な政権移行を求めるだけで米の軍事介入に対する評価に言及していない。日本の高市早苗首相も論評を避けている。事態収拾に向け、各国は結束して攻撃の違法性を指摘し、米国に国際法の順守を働きかけるべきだ。