神戸新聞NEXT

 過疎化などに伴い、バスや鉄道を利用しにくい「交通空白」地域が増えている。買い物や通院など日々の移動手段を公共交通に頼る住民にとっては切実な問題である。

 利用者の減少に加え、深刻な運転手不足から路線バスの減便・廃止が相次ぐ。公共交通の劣化が人口流出を助長し、さらに乗客離れを招く悪循環も見られる。困るのは高齢者や障害者、子どもら交通弱者だ。移動の制限は外出機会の減少など生活の質低下につながりかねない。

 雇用や福祉、教育、まちづくりなど多様な観点から地域の足を守る仕組みをつくり、自動車依存からの脱却を進める。地域全体で課題に向き合い、身近な公共交通を下支えしていかなくてはならない。

    ◇

 国土交通省は昨年5月、「交通空白」地域の現状を初めて調査した。全国の市区町村で約2千地区あり、うち4割が対策に未着手だという。

 放置した場合、事業者が採算性を重視し、日常生活に必要な路線でも撤退が相次ぐ恐れがある。公共交通には最低限の移動の確保に加え、渋滞緩和や交通事故を減らす役割がある。国は2027年度までを集中対策期間とするが、自治体への財政支援など関与を強める必要がある。

■どう守る「生活の足」

 加西市は交通空白地域の解消に積極的だ。市内には北条鉄道や路線バス、高速バスなどの公共交通機関があるが、マイカーでの生活が浸透し「外出の際は大半の市民が車を利用している」(加西市政策課)という。人口は約4万人と減少が続き、うち高齢者が3割以上を占める。

 車を運転できない世代が増え、広い市域の往来をどう確保するのか。市は住民組織が運営する「地域主体型交通」の導入を進めている。「バス路線の撤退前に住民側から動き出せるかがカギ」と、市は導入や運営の手引きを作成し、後押しする。北部3地域でバスやデマンド(予約)型乗り合いタクシーを運行する。

 その一つ、「ひよタク」が走る日吉地区を訪ねた。高齢化率は4割超と市内で最も高い。市役所から北東に約5キロ、山麓にある事務所の駐車場で、黄色い軽自動車が夕日に照らされていた。地元のNPO法人「日吉の輪」が22年から走らせる。

 路線バスが1日3便あるが、山間部の集落などは通らない。買い物や通院に困る人が多く、家族の送迎の負担も減らしたいと手を挙げた。市中心部へは乗り換えが必要だが、降車時にバスの無料乗車券を渡す。

 運転は地元住民が担う。車両は市が購入し、無償貸与する。顔なじみの住民に送迎してもらう安心感は大きいが、10人いる登録ドライバーの大半が高齢者だ。持続可能な運行には担い手の確保が欠かせない。

 月平均100人超が乗るが、「生活の足」としての周知、定着には課題も残る。それでも同法人の松尾認(みとむ)理事長(72)は「引きこもりを防ぐなど、免許返納者のセーフティーネットでありたい」と力を込める。

■危機意識を共有する

 今後も大半の地域で人口が減る。誰がどんな交通手段を必要とし、経費はどうするのか。行政や事業者、住民が膝詰めで話し合う場が要る。

 神戸市交通局は昨年12月、市バスの在り方を議論する初の市民フォーラムを開いた。利用者は約30年前の半数以下の約16万人に激減し、全路線の4分の3が赤字だ。燃料費高騰や運転手不足も直撃し、路線再編など厳しい経営判断を迫られる。

 市民の関心は高く、約100人が会場を埋めた。パネル討議で大学生が「事業者と利用者がパートナーとして街のインフラを一緒に守るべきだ」と訴えた。同局の児玉健副局長は「危機意識を共有してもらえた。市民の足を守る責任の重さを痛感している」と開催意義を強調した。

 車を運転する人には公共交通は「なくても困らない」かもしれない。だが運転できず、乗せてくれる人もいない日が来る可能性は誰にでもある。公共交通を守ることは暮らしと地域を守ること。そのための知恵と工夫を官民で積み重ねるしかない。