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 火災現場での活動には常に危険が伴うが、人命救助のために踏み込まざるを得ない場合がある。だからこそ消防隊員を襲った悲劇の原因や背景を徹底的に検証し、教訓を全国の消防組織と共有する必要がある。

 大阪市中央区の繁華街・道頓堀で8月18日午前に発生したビル火災で、消火活動中に6階に取り残された市消防局の消防隊員2人が死亡した。命の危険を冒してビルに突入した隊員の犠牲は痛ましい限りだ。心から哀悼の意を表したい。

 大阪府警や市消防局によると、ビルの6階部分などが崩落し、2人が逃げられなくなった可能性があるという。同じ階には他にも隊員3人と女性がいたが、命に別条はなかった。助かった隊員のうち1人は逃げ遅れたが、自力で脱出した。

 現場の状況確認や避難経路の確保、身を守る資機材は十分だったのか。突入のタイミングや人数は適切だったのだろうか-。湧いてくるさまざまな疑問を一つ一つ解明しなければならない。

 市消防局は事故調査委員会や外部の有識者会議で当時の状況を検証し、年度内に報告書を取りまとめる方針だ。事故が起きた経緯や安全確保策の妥当性について調査を尽くしてもらいたい。

 これまでの捜査や調査では、都心のビルに特有の要因も浮かび上がった。1階の室外機付近で出火した後、外壁を覆う装飾看板を伝って急速に炎が広がった可能性がある。

 大阪市によると、7平方メートルを超える外壁に付ける広告は、市への事前の届け出と3年ごとの更新が必要になる。火災現場の広告は7月が更新期限だったが、手続きは遅れていたという。

 また、2023年6月の立ち入り検査の際、市消防局は火災報知機の設置場所や数の不備に加え、避難経路の点検不実施などを指摘したが改善は一部にとどまっていた。事故との関連がないか調べねばならない。

 思い出されるのは03年6月に神戸市西区の民家火災の現場で消防隊員4人が殉職した事故だ。

 隊員らが家人の救出や仲間の支援を急ぐため突入した直後、天井が崩れ落ちた。予期せぬ崩落が隊員の命を奪う要因になった点は、大阪のビル火災と共通する。

 神戸市消防局は当時、教訓を踏まえた再発防止策として、現場指揮と兼務だった安全対策要員の専従化や大規模火災時の安全管理専門部隊派遣などを打ち出した。指揮と別の視点で安全を判断するのは、救助との両立を図るためには理にかなう。

 神戸と大阪の教訓を踏まえ、消防庁と全国の消防が協力して基準や対応を進化させてほしい。