東京電力福島第1原発の事故後、福島県内に降り注いだ放射性物質を取り除くために生じた「除染土」を巡り、政府は県外最終処分に向けた工程表を取りまとめた。2030年ごろに最終処分場の候補地の選定を始め、35年をめどに選ぶ。今秋、環境省内に有識者会議を設けて立地条件などの検討を進めるという。
第1原発を取り囲むように、汚染された土壌など約1410万立方メートルを一時保管する中間貯蔵施設(福島県大熊町、双葉町)がある。搬入が始まった15年から既に10年が経過しているにもかかわらず、工程表は具体性に乏しく、遅きに失したと言わざるを得ない。
県外での処分は、搬入開始後30年となる45年3月までに終えることが法律で決まっている。期限まで20年を切る中で、候補地選定の手続きをさらに5年延ばして県外搬出の約束を守れるのか。このままでは候補地の住民合意は見通せない。政府は工程表の中身をより具体的にして、少しでも前に進めなければならない。
第1原発の事故後、汚染された宅地や農地の表土をはぎ取る除染作業が行われ、福島県内分を集めるために農地だった原発周辺の約16平方キロを中間貯蔵施設にした。放射性物質濃度が比較的高い4分の1の除染土は容量を減らす処理などをして、最終処分の受け入れ先を探す。どのような手順で選定を進めるのか、政府は考え方を示してもらいたい。
残る4分の3に当たる1キログラム当たり8千ベクレル以下の除染土については、公共工事や民間工事で再利用する方針だ。作業員らの年間追加被ばく線量は国際基準の1ミリシーベルト以下に抑えられるという。除染土を別の土やコンクリートで覆うとしているが、首都圏3カ所で計画された実証試験さえ住民の反発で頓挫している。再利用には国民の幅広い理解が欠かせない。
首をかしげるのは、再利用する除染土を「復興再生土」などと呼ぶことを検討している点だ。名称を変えればイメージが変わると考えているのだろうか。除染土は7月に首相官邸で再利用されたのを皮切りに、中央省庁や地方の出先機関での活用も検討している。安全性をアピールする前に、科学的根拠に基づいた丁寧な説明を尽くしてほしい。
中間貯蔵施設内に土地を所有する住民の中には「ここを最終処分場にしようとしているのではないか」と疑念を抱く人もいる。除染土の搬出と原発周辺の再生なしに復興は実現しない。政府には懸念を払拭し、土地の将来像を描く責任がある。
除染土の問題は地元以外では十分に知られていないのが実情だ。工程表決定を機に課題を共有し、国民的な議論を広げていく必要がある。