石破茂首相と6月に就任した韓国の李在明(イジェミョン)大統領が東京で会談し、日韓関係を未来志向で発展させることで一致した。安全保障分野での戦略的な意思疎通の強化や、若者が外国で働きながら長期滞在できる「ワーキングホリデー」の拡充などの交流促進に取り組むとしている。
日韓が国交を正常化して今年で60周年の節目となる。国のリーダーが変わろうとも、首脳同士が相互往来を通して対話を重ね、安定的かつ成熟した隣国関係を築くことが不可欠だ。両国政府は合意内容を着実に実行してほしい。
韓国の大統領が2国間外交で米国より先に日本を訪れたのは、国交正常化以来初めてという。李氏は会談後の共同記者発表で「(私たちが)韓日関係を重視していることを示す意義深い訪問だ」と述べた。
李氏は対日融和を進めた尹錫悦(ユンソンニョル)前大統領を「親日売国」と非難するなど日本への厳しい態度で知られ、大統領への就任で日韓関係の悪化が懸念された。だが、国益を重視して柔軟に対応する「実用主義」を掲げ、従軍慰安婦や元徴用工を巡る問題で過去の政権による合意や解決策を尊重する立場を取っている。
日韓が連携強化に動くのは、激変する国際情勢への強い危機感からである。
同盟国にさえ一方的に高関税を課し、安全保障の面でも予測不能なトランプ米政権とどう向き合うかは最大の共通課題だ。米国は日韓の対立を警戒する。トランプ氏との会談を控える李大統領には、訪日により良好な日韓関係を強調し、日米韓の連携緊密化につなげる狙いがあったのだろう。
北朝鮮は核・ミサイル開発をやめず、中国やロシアは権威主義を強めている。東アジアの安保環境が厳しさを増す中、自由や民主主義、法の支配といった価値観を共有する日韓は、国際社会における多国間協調に先導的な役割を果たすべきだ。
内政に目を向ければ、少子高齢化や首都圏への人口集中、格差拡大など日韓が共に直面する課題は多い。韓国ではジェンダー観を巡る若い世代の男女間対立が深刻化している。社会の分断を防ぎ、課題の解決に向け、両国が幅広い分野で協力し合う体制を整えてもらいたい。
首脳会談では、石破首相が歴史認識に関する歴代首相の立場を全体として引き継ぐ方針を伝えた。日本による植民地支配への反省とおわびを明記した1998年の小渕政権下の日韓共同宣言も含まれる。
負の歴史に向き合い、対話を続ける努力が求められる。そうした積み重ねの先に、未来志向の相互理解が生まれるはずだ。