プラスチックごみ汚染を防ぐための国際条約作りを巡り、スイスで開かれていた政府間交渉委員会が、今回の条文案合意を断念した。昨年、韓国で行われた前回の交渉委に続く失敗となった。プラスチックによる環境悪化は深刻さを増しているだけに、話し合いが不調に終わったのは残念な結果だ。各国はできるだけ早く議論を再開してほしい。
石油を原料とするプラスチックは安価で耐久性が高く、工業製品や衣類、ペットボトル、レジ袋など、生活に関わる幅広い用途で使われている。経済協力開発機構(OECD)によると1950年に年間200万トンだった生産量は増え続け、4億トンを上回った。2050年には8億トンを超えるとの試算もある。
同時に廃棄量も拡大し、19年に3億5300万トンとなった。分解されないプラごみは川や海に流出し、誤って食べた魚やウミガメが死ぬ事例が増えている。また波や紫外線で微細になったマイクロプラスチックは人間の脳や血管からも見つかっている。健康への悪影響が懸念され、汚染対策は喫緊の課題である。
そのため22年の国連環境総会で法的拘束力のある国際条約策定を決議し、24年末までの条文案合意を目指した。しかし合意ができず、各国が6回目の今交渉委に臨んでいた。
意見が割れたのは、生産段階からの規制などに関する議論である。欧州連合(EU)や汚染に苦しむ島しょ国は、生産量と消費量の国際目標設定など強い規制を要求した。それに対し、規制導入で経済的な影響を受ける産油国や米国などは、廃棄物の対策に限るべきだと主張した。
今回の交渉委では、ルイス・バジャス議長(エクアドル)の案を基に議論を進めようとしたが、強い規制を求める国の反発を受けた。妥協点を探れなかった議論の進め方については再検討する必要があろう。
日本国民1人当たりの年間プラスチック使用量は100キロを超える。OECDは、日本を含む東・東南アジアから海に流出したプラごみは世界全体の3分の1を占めると指摘する。プラごみのリサイクル率向上や使い捨てプラ製品の利用減などを私たち一人一人が意識したい。
ただ、さらなるプラごみ汚染を防ぎ、危機的状況を改善させるには、消費や廃棄に加えて生産段階の規制が必要なのは明らかだ。条文案の合意は抜本的対策に欠かせない。
交渉委で日本政府は「できるだけ多くの国が参加できる条約に」と主張した。中立的な立場で調整役を担おうとしたものの十分な成果を上げられなかった。日本は積極的に議論をリードし、条約の実現に向けて重要な役割を果たしてもらいたい。