「山田錦」の新たな品種開発を目指す生物工学科の生徒や教員ら=県立農業高校
「山田錦」の新たな品種開発を目指す生物工学科の生徒や教員ら=県立農業高校

 草丈が高く台風などで倒伏しやすい酒米「山田錦」の課題を、DNA鑑定による品種選抜で解決しようと、兵庫県立農業高校(加古川市平岡町新在家)の生徒たちが取り組んでいる。丈の低い遺伝子を持つ品種の絞り込みは終わっており、来年にも試験栽培に乗り出す。日本酒の材料として優れた品質を受け継ぎ、安定的な生産・供給につながる新たな品種開発として注目される。(増井哲夫)

■5年前から取り組み

 「山田錦」は1936年、酒造りに適した「山田穂」と丈の低い「渡船(わたりぶね)」という2品種を交配し誕生。日本酒を代表する酒米の品種となった。しかし、丈が低く倒れにくい「渡船」の性質が十分に引き継がれず、農学博士で同校生物工学科の今村耕平教諭(59)や生徒らが2018年度から課題解決に取り組み始めた。

 毎年先輩の研究が引き継がれ、現在進めているのは2、3年生各3人だ。神戸大の農場で「山田錦」と「渡船2号」の交配種を栽培。7600本の苗から生育良好な70本に絞り、田んぼに植えた。葉の先端100ミリグラムを採取し、DNAマーカーを調べることで背丈の低い性質を鑑定。有望な5系統を選抜した。

 生徒たちは5系統の苗を1本ずつ手作業で田植え。他系統とまざらないよう、機械は使わなかった。8月に台風が兵庫県を縦断したが無事だった。3年の大茂夏妃さん(18)は「誇らしく、品種の開発が社会に役立つに違いないと思った」という。

 8月下旬に草丈を計測したところ、5系統のうち4系統が「山田錦」の平均約114センチを下回り、3系統は「渡船2号」の平均約111センチを下回る結果に。このほか実験により醸造に適していることも分かった。

 今後、選抜した系統のDNAと草丈の低い苗のDNAを比較し、同一性を確認するなど、品種登録に向けたデータ収集を進める。来年には、地元の農家や酒造会社の協力で、品種改良した「新たな山田錦」で試験醸造する予定だ。

 今村教諭は「普通の品種改良に比べると要する期間は3分の1。あと一歩まで来ており、学年をつないで完成してほしい」と話す。