「大正五年八月」の年紀が残る灰小屋=丹波篠山市西木之部
「大正五年八月」の年紀が残る灰小屋=丹波篠山市西木之部

 兵庫県丹波篠山市の昔ながらの農村景観のシンボルともいえる「灰小屋」は、市内に259棟が現存するが、唯一、築造の年紀が残る灰小屋が、同市西木之部の農村で見つかった。100年以上前の1916(大正5)年に造られたもので、所有者は「これからも大事に使っていきたい」と話している。(堀井正純)

 灰小屋は灰屋(はんや)とも呼ばれ、内部で枯れ木や落ち葉、わら、枯れ草などを焼き、灰肥料を作っていた。しかし、戦後、化学肥料の普及で使われなくなり、多くが農業用倉庫などに転用されている。市によると、灰を作っているのは数棟のみという。

 年紀のある灰小屋の持ち主は、農業・坂部勝実さん(79)。内壁に「大正五年八月」と年月や「坂部」の名が刻んである。「大正五年八月」の後に「新築」か「新設」と思われる2文字があるが判読しづらい。

 灰小屋は坂部さんの祖父が造ったものとの言い伝えから、「大正5年8月が築造時期とみて間違いないだろう」と市農都環境政策官の清水夏樹さんは指摘する。

 坂部さんは灰小屋を倉庫として使っているが、今回、市の補助金で屋根を修復。その際、市が灰小屋に年紀があることを確認した。

 灰小屋は江戸時代にも造られ、明治や大正期の築造と推測されるものも多いが、「建造年がはっきりと分かる灰小屋は市が把握する限り、他になく貴重」と清水さんは価値について話す。

 灰小屋で作る灰肥料は、2021年に、日本農業遺産に認定された「丹波篠山の黒大豆栽培」でも、森林資源を生かした地域循環システムとして重要な要素となっている。

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■市内に259棟、「灰小屋」の小冊子発行 市農業遺産推進協

 丹波篠山市や市内の農業団体などでつくる市農業遺産推進協議会は、「灰小屋」をテーマにした小冊子「丹波篠山の灰小屋活用ガイドライン」を作成し、全戸配布した。

 A4判8ページ。2万部を発行した。灰小屋(灰屋(はんや))は、風呂や調理に薪を使った時代には全国各地にあり、燃やした灰の保管場所だった。丹波篠山では、稲わらや土を一緒に焼く「灰肥料」の製造小屋の役割も担った。市などは地域の資産として見直しを進めている。

 小冊子では、灰小屋が市内に259棟も残り、これだけ多く残っているのは全国的にも珍しいと説明。「循環型農業のシンボルとしてみんなで活用しながら守っていきましょう」とアピールする。近年は灰小屋について修復イベントやウオーキングが催されたことも紹介。また、「草木灰(そうもくばい)」と呼ばれる灰肥料の作り方や使い方を解説し、追肥にも使え、灰汁(あく)を作れば病害虫防除にも役立つことなどを伝えている。

 ただし、灰肥料作りで、落ち葉や枯れ草を燃やす際、煙や臭いが迷惑になる場合があり、「集落や近隣の中で理解を得て、作業を進めましょう」とも指摘している。