東京電力福島第1原発事故をテーマにしたアート作品を手がけた高田哲男さん=三木市鳥町
東京電力福島第1原発事故をテーマにしたアート作品を手がけた高田哲男さん=三木市鳥町

 そろそろ土起こしが始まるはずの田んぼが、無数の大型土のう「フレコンバッグ」で埋め尽くされていた。東京電力福島第1原発からわずか10キロ南の町の光景に衝撃を受け、作品「FUKUSHIMA5000」を手がけた高田哲男さん(53)=三木市鳥町。新しい創作を追求する作家に贈られる「第29回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)」で最高賞の「岡本太郎賞」に選ばれた。東日本大震災発生からの15年を、5440枚のイラストを重ね合わせて表現した。

 「ニュースにならない、福島の今と記憶はアートにしか残せない」。高田さんは阪神・淡路大震災を経験し、支援物資の仕分けボランティアにも参加。東日本大震災では発生3カ月後の宮城県石巻市に入り、道路や溝のがれきを取り除く作業に取り組んだ。

 1年後、廃屋の壁に描かれていた絵が、新しい家で見えなくなった。「アートは新しい暮らしが始まるまでの消耗品やったんや」と、社会における役割を実感した。

 2018年1月、災害ボランティアに行く途中に通りかかった福島県富岡町で、バスの車窓から見える田んぼの風景にショックを受けた。除染廃棄物を入れた黒いフレコンバッグが山積みになった異様さに「自分も農家だからこそ分かる屈辱」を感じた。

 大熊町や双葉町にも足を運んだ。現地を歩き、納屋で袋が破れて固まった肥料、神社でほこりをかぶった供物のカップ酒、道端にあった戦隊ヒーローのおもちゃ…。夢中で写真に撮り、残された「無念さの種」を体に刻み込んだ。

 撮影した写真や報道された映像、資料を基にボールペンで10センチ四方の紙に丁寧に描き込んでいく。作品用に仕上げたイラストは5440枚。地震発生から作品発表までの日数であり、福島がたどった15年間にも符合する。

 イラストを高さ5メートルの壁3面にびっしりと並べ、中央には除染作業員や倒壊した建物などのイラストで覆われた黒いフレコンバッグを置いた。原発に残された大量の溶融核燃料(デブリ)に象徴される絶望感と、それでも復興に向かう人々の日々の営みからにじむ希望が同居する空間だ。

 審査員の美術批評家椹木野衣(さわらぎのい)さんは「原発事故という甚大な出来事と、日々の記録とのギャップが、この塊の中で一体のものとなり、わたしたちの現在の前にうずたかく積み重なっている」と評した。

 ボールペンを使うのは「日本人らしさが詰まっている消耗品だから。アートは役割を終えればただの消耗品」と高田さん。原発事故の風化が進んでいると感じ「作品をモノクロにすることで、人それぞれが持っているイメージを喚起させたかった」と話す。

 託された「種」から花を咲かせたい-。「今後はもっと暮らしの日常や人々のなりわいが増えてくるはず。死ぬまで描き続ける」。今回の賞金で再び福島に足を運ぶ予定だ。

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 高田さんの作品は3月29日まで川崎市岡本太郎美術館で見ることができる。同館TEL044・900・9898(小西隆久)