模型を使って補てつ物を作る歯科技工士の泉敏治さん=尼崎市西昆陽2、ハイテックデンタルラボラトリー
模型を使って補てつ物を作る歯科技工士の泉敏治さん=尼崎市西昆陽2、ハイテックデンタルラボラトリー

 入れ歯や歯のかぶせ物などを作る専門職「歯科技工士」の就業者数が、兵庫県などで減少している。歯の健康を陰で支える国家資格だが、2000年と比べて全国で15%減。背景には、適切な技工料が得られていないという指摘があり「しんどいばかりで、もうからない」との声も漏れる。歯科医療の「裏方」に光を当て、経営の安定につなげようと、兵庫では技工士間で連携する動きもある。

 「20代で生えそろった歯の並び方が崩れると、人の姿勢も崩れる。技工士は、人の健康を維持することに貢献できる仕事です」。歯科技工所「ハイテックデンタルラボラトリー」(尼崎市)を経営する泉敏治さん(67)は言う。

 だが、兵庫や東京、大阪など41都道府県で技工士の就業者数は減っている。厚生労働省がまとめた「衛生行政報告例」によると、00年の全国3万7244人から、24年は3万1733人。都道府県別では、神奈川や愛知など6府県が増加したが、兵庫は1割減の約1200人、熊本や宮崎は半減に近かった。一方、取引相手となる歯科医師の総数(22年末時点)は00年比で15・8%増となっている。

 技工士の収入は、歯科医から支払われる技工料が大半を占める。歯科医からの依頼で入れ歯などを作り、技工料は両者間の価格交渉で決まるといい、国は報酬の目安として「7(技工士)対3(歯科医)」の割合を示している。例えば入れ歯の製作に1万円かかった場合、本来は技工士が7千円、歯科医は管理料の3千円を受け取る。

 県内の男性技工士は「歯科医から『もう少し安く』と頼まれれば、仕事を受注する立場として断りにくい。技工料の割合の方が6対4、5対5と減っていく」と実情を語る。国が示す目安に法的な拘束力はなく、より多くの受注につなげるため業者間の価格競争も激しいという。

 経営が厳しいのは歯科医も同じで、東京商工リサーチによると、歯科医院の倒産(負債額1千万円以上、24年)は18年と並ぶ過去最多。別の技工士は「歯科医もコストを切り詰める必要があるのだろう」。

 全国保険医団体連合会(東京)が実施したアンケートで、兵庫県内の148技工所の回答をみると、業務で最も負担に感じることは「歯科医院との料金交渉」が最多だった。

 また、経営改善に必要な要望を聞くと「(歯科技工士から患者への)直接請求制度の創設」、詰め物やかぶせ物など「補てつ物」の診療報酬の増額を求める回答が上位だった。

 兵庫県の技工所の中には、互いに連携し、仕事を分業する取り組みも始まっている。

 関西や関東、東海地方の歯科医から年間3万~4万件受注する「クラフトデンタル」(加古川市)。約20年前から億単位の資金を投じ、コンピューター利用設計システム(CAD)と同製造システム(CAM)などを積極的に導入してきた。

 これまでかぶせ物は「金属製」が一般的だったが、自然な歯の色に近いかぶせ物が保険診療の対象となって需要が増えており、CAD/CAMが製作に一役買っている。

 さらに、入れ歯の一種「ノンクラスプデンチャー」の製作にも活用。入れ歯のベースをデジタル技術で設計し、自動で切削加工できる。その後、歯を配置する工程以降は、再び歯科技工士が作業を担うという。

 同社の衣笠辰雄社長は、さらにデジタル技術を生かした作業が広がることを見据えつつも「デジタルは何十、何百とある工程の一部を担うに過ぎない。仕上げなどは技工士の手が欠かせない」と強調。他の技工所に仕上げ工程を依頼するなど、分業化を進めており「歯科技工の業界全体で苦境を乗り越えたい」と力を込める。(千葉翔大)

【歯科技工士】高校卒業後、専門学校などで2年以上学び、国家試験に合格して申請すると、歯科技工士名簿に登録され、免許が交付される。離職率の高さなどもあり、2024年の就業者数のうち、29歳以下は全体の10・4%で、50歳以上が56%を占める。