アジア・太平洋戦争後、引き揚げ者から税関が預かった通貨・証券のうち、64%に当たる約86万2千件が今も未返還になっている。昨年、返還に至ったのはわずか5人8件。神戸税関(神戸市中央区)では約1万6800件が未返還で、2017年以降の返還はゼロ件だ。終戦から80年がたち、歳月の壁が戦後処理に立ちはだかる。(田中真治)
■照会激減、返還進まず、神戸でも1.6万件
連合国軍総司令部(GHQ)はインフレを防ぐため外地からの持ち込み額を、民間人千円▽将校500円▽下士官以下200円-までに制限。超過分は上陸港の税関が預かった。引き揚げ前に在外公館などに預けられた分は、横浜税関が一括保管している。
日本銀行券や満州国などの在外銀行券、旧日本軍が発行した軍用手票(軍票)のほか、小切手や預金通帳、保険証書や株券などがあり、総保管数は約134万9千件に上った。返還は、外為法の改正で1953年9月から開始。昨年末までに約48万6千件が持ち主に返還された。
神戸税関は管轄する神戸▽呉▽宇品▽大竹-の4港で、計3万4587人から5万489件を預かった。現在も計1万4409人の1万6810件を保管しており、件数で33%が未返還のまま。この半世紀、返還は進んでいない。
神戸税関が把握する近年の返還数(かっこ内は照会者数)は、14年=2人2件(221人)▽15年=6人6件(523人)▽16年=3人4件(125人)-にとどまり、17年以降はゼロ。今年は8月末までに9人から照会があり、「調査したが返還に至らなかった」という。
税関が発行した保管証があれば確実だが、今では所持している照会者はまれ。近年は「預かっていないか調べてほしい」という問い合わせがほとんどで、名前や上陸港を手掛かりに照合してもなかなか該当がない状況だという。
神戸税関では照会者数も20年以降は5人に満たず、昨年はなし。税関の周知の取り組みも後退している。
かつては、終戦の日の前後に紙幣などの「虫干し」を報道公開し、デパートなどで展示。だが、神戸税関では虫干しは冬に変更して続けているが、公開は16年を最後に取りやめ。上級庁の指示による判断という。
紙幣などは、紙の劣化が進んでいる。現行の通貨は一部とみられるが、今も庁内の専用金庫で厳重に保管されている。
「今後も一人でも多くの人に返還していきたい」と担当者。上陸港の場所にかかわらず、調査を受け付けている。神戸税関監視部TEL078・333・3122