夏の参院選でのことだ。私たちは街頭で目の当たりにした光景に激しい既視感を覚えた。人々をあおるような生々しいやりとり。飛び交う歓声と怒号。交流サイト(SNS)や投稿動画でつながり、うねりとなった有権者の感情が熱を帯びて広がる。そう、8カ月前の昨年秋、兵庫県知事選で目にしたものと同じだった。この光景の底流にあるのは、知事選の時と同じく「分断」なのか。それとも-。私たちは県内の有権者の動向を探ることにした。(連載取材班)
参院選の選挙運動が繰り広げられていた7月、神戸市中央区の東遊園地には平日夕方にもかかわらず、数百人の聴衆が集まった。人々がスマートフォンを向ける先に、参政党代表の神谷宗幣(そうへい)がいた。
「ここは日本だから、日本人ファーストでいいじゃないか。われわれは政治に哲学を取り戻す」。主張に反対する声が上がると、声を荒らげて言い放った。「おまえらは日本を悪くしたいのか。ふざけるな」
演説はユーチューブでもライブ配信され、ネット上には「魂を揺さぶられた」「勇気をもらえた」などの書き込みが相次いだ。
参政は参院選前まで1議席だったが、今回は選挙区で7議席、比例で7議席の計14議席を新たに獲得した。結成から10年に満たない「新興政党」は、参政以外の多くも支持を伸ばし、日本保守党は2議席、チームみらいは1議席を初めて獲得。れいわ新選組も議席を増やした。
兵庫に目を向ければ、参政は選挙区こそ競り負けたものの、比例得票は33万票を超え、自民党、日本維新の会に次ぐ3位に食い込んだ。れいわや保守などを含めた新興政党全体の比例得票は計約80万票で、2022年参院選時の新興政党の得票数から3・4倍に拡大。これに旧民社党の流れをくむ国民民主党を加えると計100万票を超えた。
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ここで、昨年秋の兵庫県知事選の出口調査結果を振り返ってみたい。
私たちは、再選した斎藤元彦に票を投じた人たちの支持政党に注目し、斎藤が初当選した21年の知事選の調査結果と比較した。すると自民・公明党、維新の支持層の割合はそれぞれ10ポイント以上減っていた。逆に3年前から急増した層があった。「その他の政党」である。
21年の時点では、参政は政党要件を満たしておらず、保守はまだ結成されていない。国民やれいわも県内の支持はわずかだった。それが3年を経て「新興政党」として存在感を示すようになっていた。
これに7月の参院選での出口調査を重ねてみる。調査では有権者の投票先とともに昨年の知事選での投票先を尋ねていた。結果を見ると、参政や保守の支持者のうち、昨年の知事選で斎藤に入れた人の割合は8割を超えていた。国民では6割超、れいわでも5割超に達した。
昨年秋の知事選で斎藤を再選へと押し上げた支持層が、参院選で新興政党を躍進させ、既成政党の支持に陰りを刻んだ。そのことを二つの出口調査のデータは示していた。
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私たちはこれまでの連載で、知事選で斎藤を押し上げた支持者が新聞やテレビを「オールドメディア」と呼んで敬遠する一方、SNSや投稿動画を通して政治に関心を寄せ、投票へと動く流れを見つめてきた。
参院選の結果を受け、有権者への取材を進める取っかかりとしてネットアンケートを実施したところ、約700人から回答と詳細な書き込みが得られた。読み解いていくと、一つのキーワードが浮かんだ。
それは「不信」だった。
(敬称略)