20日投開票の参院選で、神戸新聞社は交流サイト(SNS)で拡散する情報や、政治家の言説などの正確性を検証する「ファクトチェック(FC)」に取り組んだ。神戸新聞NEXTの特設コーナー「ファクト検証」から記事16本(うち紙面掲載は10本)を出し、関連記事を含めて21本(同13本)を配信した。ほかの新聞社やテレビ局も多くのFC記事を配信した。
■昨秋の兵庫県知事選踏まえ
昨秋の県知事選で虚偽や真偽不明の情報がSNSや動画投稿サイトで急激に拡散され、読者から「何が本当か分からない」などの声が寄せられた経験を踏まえた取り組み。日本でFCを推進する認定NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」(東京都)のガイドライン活用メディアに神戸新聞社も加わった。
16本の内訳は、兵庫選挙区の13候補が選挙公報に記載した内容の判定=7本▽外国人増加や選択的夫婦別姓制度が治安悪化につながるとした参政党の言説検証=2本▽政治団体「NHK党」党首の立花孝志氏らがSNSに投稿した前明石市長の泉房穂氏に絡む言説検証=2本-など。消費税減税を巡る石破茂首相の発言や、投票事務に関して出回った誤情報も扱った。
その他の関連記事では、言説チェックの一環として、立花氏が演説で神戸新聞社の情勢調査の情報を入手したかのような発言を誤りと指摘したほか、別の演説で自身への抗議活動を選挙妨害とみなして不適切な攻撃的発言をしたことなどを取り上げた。
「ファクト検証」情報募集コーナーには、投開票の20日までに49件が寄せられた。内訳は、兵庫県の告発文書問題や斎藤元彦知事の関連が15件▽泉氏関連が11件▽立花氏関連が10件-など。このうち拡散された言説や、拡散によって選挙に影響を及ぼしそうな言説など6件を記事化した。
FC記事について読者やネットユーザーからは「報道機関や第三者がファクトを示して否定することは、大事な役割だと思った」などの反応があった。一方で、選挙公報の言説判定は選挙情勢に影響を与えかねないとする陣営の声や、選挙公報そのものはNEXTに掲載したが「もっと見やすくしてほしい」と求める声もあった。
他にも「新聞社がファクト検証しても、その結果をさらにデマで上塗りされる現実もある」「SNS選挙の中でファクトチェックがより対立構図をあおる部分も出てくると感じた。始まったばかりなので、時間をかけて検証手法を成熟させてほしい」などの感想もあった。
FIJはホームページで参院選に関するFC記事を集約しており、選挙期間中の3~20日の配信記事は185本。神戸新聞を含めて37の新聞社やテレビ局などが手がけた。
検証テーマは外国人関連が50本を超えて最多となり、特に選挙戦後半での配信が目立った。外国人政策が争点として急浮上する中、各社が急いで対応したことがうかがえる。(参院選取材班)
【FIJの瀬川至朗理事長の話】昨秋の兵庫県知事選で選挙期間中のファクトチェック記事の配信は2本だけだった。報道の空白が生まれ、SNSに真偽不明の情報が飛び交った知事選の反省を各メディアが意識した結果、参院選での多くの配信につながったのだろう。一方で新しい試みのため、検証方法や見出し、判定の説明などの質に差もあった。課題を整理するとともに、より多くの人に届けるための手法も考えなければならない
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