法衣姿で一緒に遊び、自ら「寺に親しみを持つ」ことを子どもたちに伝える渡邊崇俊住職(中央)=丹波市青垣町東芦田
法衣姿で一緒に遊び、自ら「寺に親しみを持つ」ことを子どもたちに伝える渡邊崇俊住職(中央)=丹波市青垣町東芦田

 かつての寺は子どもたちの遊び場、勉強の場でもあり、地域住民の心のよりどころでもあった。原点に立ち返り、薄れつつある寺と人との接点を見つめ直そうと、丹波市青垣町東芦田の曹洞宗瑞雲寺が法要だけでなく、境内を生かしたイベントや子育て世代の交流会などを企画している。今月からは本堂に子どもの遊び場を常設。次世代に向けて、寺や仏教に親しめる土壌づくりを進めている。(秋山亮太)

 同寺は1441年、「小室城主」だった芦田八郎金猶が一族の主筋にあたる丹波守護・細川満元を弔うために建立したとされる。当初は天台宗で、その後曹洞宗に。姫路城や安土城にも見られ、寺院では珍しいという「穴太積み」の石垣を有することでも知られる。今年5月下旬、渡邊崇俊住職(38)が父の俊明さん(75)から受け継ぎ、25代目住職に就いた。

■コロナ禍がきっかけ

 仏寺として檀家ら地域住民の葬儀や法要を執り行うのはもちろん、同寺では数年前から人が集える場をつくってきた。

 きっかけはコロナ禍だった。渡邊住職は地元で十数年、「放課後児童支援員」としても活動。感染予防で密集を避けるよう呼びかけられた影響で、地域の子どもたちが家以外で過ごせる場所や機会を多く失っていることに気付いた。

 「子どもたちのために寺でできることはないか」と考える中で、自身が石垣に登ったり、駐車場でバスケットボールをしたりして境内で遊んだことを思い出した。「広い敷地で接触も多くなく、開放的に過ごせるのでは」と、父の俊明さんと相談。手描きのバスケットコートや、漫画や卓球台を置いた倉庫も設けて寺を開放した。

■広がる集いの輪

 地元の子どもやその親たちが訪れるうち、「遊べるお寺」として瑞雲寺の名は広まった。その後、バスケットコートを生かして大人たちも参加できる「フリースロー大会」を企画。交流サイト(SNS)でその様子を発信した。

 自身も子育て中であることから「パパママ会」も月1回程度開き、交流の輪を広げてきた。地元で活動するダンサー、ミュージシャンらの披露の場になるイベント、「石段駆け上がり大会」も開催。寺や仏教になじみのない人にも興味を持ってもらえるよう、門戸をさまざまな方向に広げた。

 取り組みの成果の一つが、住職就任の「晋山式」で行われた稚児行列だ。地域の子どもたちが来てくれるか不安もあったが、寺を遊び場として開放してきた縁で、80人を超える子どもたちが参加してくれた。総勢で約160人の盛大な稚児行列となった。

■30、40年後を見据え

 住職就任後からは、寺をさらに身近に感じてもらおうと、「寺子屋瑞雲寺」と名付けて本堂内の一角におもちゃや子ども向けの本を置いたスペースを常設した。法要などで寺を空けていない時以外は、基本的に誰でも利用できる。畳に好きなおもちゃを広げたり、広い堂内を駆けたり…。「午後5時にお寺の鐘が鳴ったらうちに帰る」のが唯一の決まりだ。

 時代が変わり寺との接点が薄れてきた理由の一つを、渡邊住職は「お寺では『ちゃんとしていないといけない』という距離感が生じてしまったことにある」と考えている。

 「寺を大切にする気持ちは大事だが、遊ぶな、はしゃぐなと一辺倒に求めるのは少し違う」と渡邊住職。「法要の横で遊んでいたっていい。ただいるだけでも仏の言葉や説法は届いている。まずは親しむことから。孫やそのまた子どもたちの時代に『お寺に遊びに行ってくる』と子どもらが自然に口にしてくれる日を思い、これからも種をまき続けたい」

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 寺子屋瑞雲寺の開催など取り組みの情報は同寺のインスタグラムで発信している。