栗岡誠司先生
栗岡誠司先生

 「理科の散歩道」のきっかけとなったのは、1999年に本紙の東播版に掲載された一本の記事でした。当時、加古川北高に勤めていた栗岡誠司先生が開いた「科学教室」の原稿です。地域の子どもたちが実験で科学の世界に触れる様子を伝えていました。連載を依頼すると栗岡先生は快諾。マレーシア国立マラヤ大学に勤務する今も、監修を担ってくれています。改めて狙いなどを聞きました。

 -これまでの執筆陣は約150人に上ります。

 「最初は高校教諭の仲間で立ち上げた『化学教育兵庫サークル』のメンバー10人ほどで書いていましたが、読み手もさまざまなので、高校教諭以外にも広げようと、それぞれの人脈で声をかけました。校長先生が学校をPRするため、理科の先生にお願いすることもあったようです」

 -連載の狙いは。

 「生涯学習の題材の一つになればと思っています。国語なら俳句や読書、社会なら歴史散歩、芸術系なら音楽や絵画、書道などを趣味にする人はいますが、理科を趣味にする人はあまりいません。科学技術社会の中で理科に興味を持ってもらうため、メディアの中に語りかける場があるのは意義深いと考えています」

 -執筆や監修で意識することは。

 「できるだけ数字や専門用語は使わず、『エビデンス』(根拠)といった片仮名も避けています。悩ましいのが『正しさ』と『分かりやすさ、読みやすさ』のバランス。詳しく書くと読みにくくなるし、分かりやすく書くと正確さに欠けるかもしれない。そこが難しいですね」

 「書き出しの文章も工夫しています。実は推敲(すいこう)段階で妻に読んでもらったことがありましたが、『鉄や亜鉛と聞くと何を思い浮かべますか』という書き出しに対し、妻は『何も思い浮かばない』と。少しショックでしたが、理科をなりわいとしない人でも取っつきやすい原稿を心がけています」

 -これほど長く続くと、ネタに困りませんか。

 「例えば興味を持った現象やテレビの話題、新しい製品など、『これだったら解説できる』というネタを探す習慣は、多くの理科教諭が持ち合わせていると思います。四半世紀前にはなかったものが登場したり、逆に存在していたものがなくなったりもします。ネタは尽きませんよ」

 -今後の展望は。

 「連載そのものは今のスタイルで続けていきたいし、新たな執筆者も開拓したい。『理科の散歩道』を書くことは先生にとってもいい経験。授業の語りも変わってきます。記事自体が授業や読書の時間に使われることもあります。あと、これまでに単行本として第4集まで発行してます。できれば次を出したいですね」(聞き手・田中陽一)

【理科の散歩道】特集ページ