「ひとはく」は、全国的にも珍しく大学の研究所を内包する博物館です。研究員の半分以上が兵庫県立大学の教員を本務としており、大学院生や研究生を指導しています。私はここ数年、そうした大学院生や研究生たちに、兵庫県の淡水魚について調べてもらっています。すると、調べれば調べるほど、淡水魚を巡る悲しい現実が浮かび上がってきます。
例えば、武庫川のある地点から採集したドジョウを遺伝的に調べたところ、国外外来生物である大陸産ドジョウとの交雑が確認されました。国内産も大陸産も同じ「ドジョウ」という種に分類されていますが、遺伝的には異なります。
また、希少なシロヒレタビラについても遺伝解析を行ったところ、多くの調査地点で、兵庫県では本来生息しないはずの国内外来生物であるアカヒレタビラと、交雑していました。
さらに、これは形態に基づく予備的な結果ですが、琵琶湖原産の国内外来生物であるゲンゴロウブナ、いわゆるヘラブナが、在来のオオキンブナと交雑している可能性も示されました。
こうした外来生物は、釣りの対象や活き餌として、あるいは観賞用として、さまざまな目的で流通しています。そして、それらが意図的あるいは非意図的に自然界に放たれた結果、在来生物との交雑が起きてしまうと考えられます。
日本では、放生会(ほうじょうえ)やアユの放流など、生物を野外に放つ文化や政策が根付いています。そのためか、放流に対して寛容な人が多い印象があります。
しかし、放流によって自然に放たれた外来生物は、既存の生態系を改変させるだけでなく、交雑した場合、在来生物が長い時間かけて育んできた固有の遺伝的特徴を永久に変えてしまいます。これは遺伝子汚染と呼ばれ、大きな問題となっています。
また、外来生物が在来生物と交雑できるということは、両者の遺伝的な距離が近いことを意味します。このため多くの場合、両者は見た目が似ており、一般の方にとって見分けが難しく、外来生物としての問題意識も持たれにくい傾向があります。これは、オオクチバスやブルーギルなど外見からすぐに外来と分かる生物にはない、固有の問題です。
悲しいことに、皆さんの目に見えないところでも、外来生物による問題は着実に進んでいるのです。どうか、安易な放流は決して行わないよう、切にお願いいたします。