実験室で分子を合成する
実験室で分子を合成する

■生物と人工物の境界探る 

 私たちの体はたくさんの「細胞」が集まることで形作られています。これら一つ一つの細胞は「分子」と呼ばれるさらに小さい物質が集まることで構築されており、分子はさらに「原子」と呼ばれる小さな粒がつながってできています。同じように、私たちの身の回りに存在するあらゆる物質(例えばこの新聞紙)も原子がつながることでできています。

 しかし、私たちは食物を摂取することで体が成長したり、目で見たものや耳で聞いたことについて頭で考えたりすることができるのに対して、身の回りの人工物はそのようなことができません。どちらも原子がつながることでできているという点では全く同じにもかかわらず、一体この差はどこから生じているのでしょうか?

 この疑問に対する答えを見つけるべく、関西学院大学理学部化学科にある私たちの研究室では、さまざまな工夫を盛り込んだ分子をフラスコの中で合成し、さらにそれらを集めて塊を作ることで、生き物のように振る舞う人工物を作ることを目指しています。

 例えば、私たちの研究室で合成した分子の塊に「食物」を与えてやると塊が大きくなり、しばらくすると「老廃物」を排出して小さくなります。他にも、ある分子の塊の外から力をかけてやると、外側のものを塊の内側に取り込むことができるものを作っています。

 話の本筋からは外れてしまいますが、実はこれはとてもすごいことで、一般的に人工物は製造された後は一方的に朽ちていくだけですが、私たちの研究を応用すれば人工物が自己を常に新しく作り替えられるようになり、あらゆる人工物が今までとは比べ物にならないくらい長持ちするようになります。

 この先は「より生き物っぽいことができる」人工物へとさらに進化させていくことで、いつかは私たちのような意識が人工物にも宿り、自己で考えて行動できるようになるのではないかと期待しています。その時になって初めて、人類は「生命や心の仕組み」を理解できたと言えるのではないかと考えています。