日本列島は地震や火山噴火による多くの自然災害を経験してきました。21世紀になっても、2011年東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)、16年熊本地震、24年能登半島地震などによる大震災が発生しています。
また、1991年には長崎県の雲仙普賢岳で火砕流が発生して43人の死者・行方不明者を出し、2014年には死火山とされていた岐阜県・長野県境の御嶽山で水蒸気爆発が起こり、63人もの死者・行方不明者が出ました。まさに地震と火山の国、日本を象徴する出来事でした。
東北地方沖の大地震は、マグニチュード(M)9・0という未曽有の巨大地震です。火山噴火にも、それに匹敵する巨大噴火があります。北海道には、支笏(しこつ)湖や屈斜路湖などのカルデラ湖があります。カルデラは、火山の地下のマグマが大量に噴出してできた空洞に、上位の地層が落ち込んで造られた円形のくぼみです。このくぼみに水がたまった湖がカルデラ湖です。直径10キロを超える巨大なカルデラは、膨大な量のマグマが噴出する巨大噴火で造られます。従って、屈斜路湖などの大きなカルデラ湖は、過去の巨大噴火の証拠と言えます。
九州には大きなカルデラ湖はありませんが、世界最大級の阿蘇カルデラをはじめ、巨大なカルデラ地形が多くあります。
九州南部の鹿児島湾も、重なり合う複数のカルデラに海水が入り、内湾となったところです。桜島から北側のくぼみが姶良(あいら)カルデラで、約3万年前の巨大噴火で造られました。この噴火では、軽石と火山灰が入り混じった火砕流が九州南部を広く覆い、シラス台地を形成しました。火砕流と同時に高く噴き上げられた軽石や火山灰は、偏西風に乗って東方へ運ばれ、日本列島に降り注ぎました。これが姶良火山灰で、近畿地方にも20~30センチの厚さで積もりました。
姶良火山灰は、日本列島を広く覆う広域火山灰の代表例です。研究者には略称の「AT」が広く使われています。噴火年代が明らかなATは、地質学や考古学などの分野で地層中の時間目盛りとして役立ちます。石器などの遺物が見つかった遺跡でATを発見できれば、遺跡の時代を約3万年前と決められます。湖沼底にたまった粘土層中にATを発見できれば、そこに3万年前という時間目盛りが入れられます。
噴火当時の生き物には、巨大噴火は大変な災厄であったに違いありません。しかし、その産物である広域火山灰は、今では貴重な時間目盛りとなる地層として、さまざまな学問分野で役立てられています。