シチダンカの群生
シチダンカの群生

 山々の新緑の濃淡が美しく、有馬の自然を感じる季節になりました。六甲山の登山道では、シーボルトの植物図鑑に掲載されている幻のアジサイ「シチダンカ」が咲いており、秀吉の正室ねねさんゆかりの念仏寺では沙羅の花が咲いています。そしてよく探してみると、牧野富太郎が命名したアリマウマノスズクサが見られ、そのアリマウマノスズクサを食べるジャコウアゲハが飛んでいます。もうすぐすれば、有馬川でカジカガエルの鳴き声も聞かれます。

 はるか昔、ユーラシアプレートにインドプレートがぶつかったことにより、8千メートル級のヒマラヤ山脈が生まれました。この山脈の壁に偏西風がぶつかって、遠く離れた日本で梅雨が生まれます。雨の多い日が続きますが、梅雨がなければ稲作などに大きな影響が出てしまいます。

 300万年前にフィリピン海プレートが進行方向を変えたために、西日本に凸凹の地形が誕生しました。琵琶湖や六甲山や瀬戸内海ができたのです。瀬戸内海の凸の部分は淡路島であり、瀬戸大橋やしまなみ海道の島々です。そして凹の部分が播磨灘や大阪湾になります。その凸と凹の間には強い潮の流れが生まれます。そのような場所に生息する魚は筋肉質になり、アミノ酸が豊富になります。つまりおいしい魚になります。それが明石鯛や明石タコです。そして地球上で一番新しいフィリピン海プレートが方向を変え、紀伊半島の下に沈み込んでいるために、有馬に温泉が湧くのです。

 「妬(うわなり)泉源」に行くと案内板があり、泉温が100・5度と表示されています。火山がないのにこのような高温の温泉が湧くのは、世界で有馬だけと言って過言ではないと思います。そして、600万前にフィリピン海プレートが日本列島の下に沈み込む際に取り込まれた海水の成分と、上部マントルの成分が含まれた湯が湧いているのです。この湯も世界唯一だと思います。

 日本列島は四つのプレートが集まっているため、火山が多く地震の多発地帯ですが、美しい自然景観が誕生し、四季が生まれます。同じような島国のイギリスとの大きな違いです。

 最近有馬温泉街に増えてきた欧米豪の外国人旅行者に、単に美しい自然を見ていただくだけでなく、そのような自然が生まれた理由を知っていただかなければいけないと考えています。

 現在、日本温泉協会は日本の温泉文化をユネスコ無形文化遺産に登録しようと動いています。その中でも、有馬の自然や温泉、歴史や伝統文化は重要だと考えています。