鳥のふんに似ていることから、ユニークな和名がついたクモ「オオトリノフンダマシ」
鳥のふんに似ていることから、ユニークな和名がついたクモ「オオトリノフンダマシ」

■山崎健史主任研究員

 書店に行くとさまざまな図鑑が置いてあります。メジャーな昆虫図鑑、植物図鑑などに加え、さらにはスパイス図鑑やビール図鑑なんてものもあります。誰でも一度は、生物の図鑑をパラパラと眺めたことがあると思います。特に昆虫や植物好きにとって、図鑑を開き、掲載された未知の生物写真を眺める時間は、知的好奇心を満たしてくれる至福のひとときです。

 皆さんは、これら日本の生物図鑑が世界的に見て類いまれな特徴を持っていることにお気づきでしょうか。写真の素晴らしさやマニアックな生物の充実ではありません。日本の生物図鑑の特徴、それは生物一種一種に「和名(日本語の名前)」が付けられているということです。

 「名前が載ってなきゃ、図鑑じゃないでしょ」とブーイングが聞こえてきそうです。強調したいのは、自国の言語で、生物一種一種を認識し、名称を与えているという点です。自国の言語がポイントです。各生物はラテン語の学名により、全世界で共通認識されています。例えば、私たちヒトは、言語ごとに名称が異なり、日本語では「ヒト」、英語では「human」、マレー語では「orang」です。しかし、学名では「Homo sapiens」といい、全世界の共通の名前です。

 日本における生物図鑑には、国内のさまざまな生物とともに、和名が必ず掲載されています。日本ではこの状態があまりにもスタンダードなので、いかに日本の図鑑がすごいのかを認識する機会がありませんが、実は世界的に見て驚くべき特徴なのです。世界的にみると、図鑑に掲載される名前は学名です。また主要な生物については、英語名などが付けられている場合がありますが、日本のように、何から何まで自国の言語で名前が付いているということはありません。

 このように、学名以外に、生物一種一種に対して自国の言語で名前をつけるという文化は、日本の他、中国、韓国にもみられるようです。たかが名前ですが、名称が与えられることで、同じ言語を使う集団がその生物を共通認識できます。それは、自国の生物多様性を認識する上で大きな強みになります。日本は自国の言語で、自国の生物多様性を認識できる類いまれな地域です。

 ぜひ、図鑑をめくる機会がありましたら、「和名」があるという点に注目していただき、日本の図鑑の素晴らしさを実感してほしいと思います。