■頼末武史主任研究員
私は海洋生物の生態を調べていますが、特にフジツボを対象にした調査や実験をよくやっています。フジツボは飼育が比較的簡単なので飼育実験がやりやすかったり、岸壁などに付着して移動しないため野外でも継続して観察できたりと、生態の研究材料として優秀なのです。
大学院生時代から数えてかれこれ15年以上、フジツボの研究と向き合う日常を送っていますが、フジツボが楽器になるのを知ったのは昨年のことでした。10月に、海の中で付着している生物を専門とする研究者が集う「日本付着生物学会」の50周年シンポジウムが東京大学・大気海洋研究所で開催され、そこでフジツボ演奏家のふぅさんと出会いました。
ふぅさんはアカフジツボという比較的大型のフジツボの殻を笛のようにして吹き、口元の微妙な角度を調整して音階を奏でることができます。テンポの速いポップソングからバラード、さらには即興音楽まで、なんでも吹くことが出来るすごい方です。
そこで昨年12月に人と自然の博物館(ひとはく)にお呼びし、クリスマスコンサートを実施していただきました。お客さんのみならず、博物館職員からも「フジツボコンサートって何!?」という戸惑いの声が聞こえてきましたが、実際にコンサートが始まると、みなさん手拍子をして音楽に聞き入っておられました。
また「ひとはく」でのコンサートの翌日には「香美町立ジオパークと海の文化館」に出向き、私が担当した研究セミナーとふぅさんのクリスマスコンサートのコラボイベントを実施し、子どもから大人まで楽しんでいただくことができました。私の知る限り、フジツボ・コンサートツアーを実施したのは私たちが世界初です。
フジツボの殻は自然のものなので、通常の楽器を演奏するよりも音階の調整が難しく、たまに音が外れてしまうこともあります。しかしふぅさんいわく、その揺らぎがフジツボ音楽の魅力だとか。フジツボ研究者の私でもまだまだ知らないフジツボの世界があるんだなぁと思った1年でした。フジツボ音楽を聴いてみたいという方、是非ふぅさんのユーチューブチャンネルを探してみてください。コンサートの様子もご覧いただくことができます。