素振りに汗を流す三田プリンスのスラッガー森本繁さん=三田市武庫が丘3、三田谷公園
素振りに汗を流す三田プリンスのスラッガー森本繁さん=三田市武庫が丘3、三田谷公園

 鉄人、とでもいうべきか。古希を迎えた森本繁さん(70)=兵庫県丹波篠山市=が、1試合4本塁打の大記録を打ち立てた。4月、県還暦軟式野球連盟の古希リーグ戦でのことだ。三田プリンス(同県三田市)の主力打者は「試合中は勝ちたい一心。終わってみて『そないにようけ打ったんか』と驚きました」と振り返る。人生100年時代。きょうも、仲間と白球を追い続ける。(土井秀人)

■5打数5安打9打点、最後は満塁弾

 この試合、森本さんは「5打数5安打9打点」の大活躍だった。何度も豪快なアーチを描き、最後の打席は満塁ホームラン。それでも「たまたま自分の振るタイミングに合っただけ」と照れ笑いする。同連盟のホームページは「過去にない大記録か?」と記す。

 篠山鳳鳴高校の野球部でピッチャーを務めたが、甲子園どころか「1回戦ボーイでした」。卒業後は篠山町(現丹波篠山市)の職員に。役場内の草野球チームに所属し、30代半ばまでプレーした。その後は高校野球や軟式野球の審判を務め、55歳で早期退職。母校のコーチになり、6年間ノックに汗を流した。

 コーチを引退し、再び自らもプレーしようとしたが、篠山には還暦野球のチームがなかった。そこで三田プリンスの試合を見に行き、驚いた。当時70代半ばにもなる大先輩が、セーフティーバントをして一塁へ全力疾走していた。「こんなに素晴らしい野球をしている」。61歳で入団した。

■バットに当てる技術向上、飛ばすコツも

 農業をしながら週2回の練習に参加する。準備体操を念入りにしてから、キャッチボールやノック、バッティング練習に励む。「退職すると過去の話ばかりになるでしょ。それはそれで楽しいけど、ここでは新しい仲間ができ、前向きな話ができる」

 現在は古希と還暦の両リーグ戦で1番センターを務める。審判を長く務めたことでボールを最後まで見る目が養われ、バットに当てる技術が向上した。ノックを打ち続けてボールを遠くに飛ばすこつも覚えた。まさに遅咲きのスラッガーだ。

 強豪チームを引っ張るが、負ければやはり悔しい。「相手チームも知った顔なので、次は打ってやろうとか、抑えてやろうとか。結果の勝ち負けにはこだわらないけど、それまでは一生懸命やる。みんな、ほんまに熱心ですよ」

 年を重ねればできないことが増えてくる。それを含めての野球であり、仲間だ。いくつになっても目標がある。

■未経験者が成長、全国でも活躍 三田プリンス

 シニア野球チームの三田プリンスは59~89歳の約50人が所属し、全国大会に何度も出場している強豪だ。今季も24日の還暦リーグ戦でエース川畑重幸さん(67)がノーヒットノーランを達成するなど快進撃を続けている。

 1999年に三田軟式野球協会のメンバーが中心となって立ち上げた。還暦リーグは59歳以上、古希リーグは69歳以上が出場できる。発足当初は選手が20人ほどしかおらず、代表の長尾研司さん(84)は「野球経験者も少なく、試合をするにもぎりぎりの数だった」と振り返る。

 だが、未経験者も仲間に教えられて成長してきた。ここ7~8年はエースや主力打者らの活躍もあり、全国大会出場の常連に。2018年には全日本還暦軟式野球選手権大会で3位に輝いた。

 一方で時代の変化による課題も生まれている。65歳まで働く人が増えたため、新たなメンバーが集まりにくくなってきた。それでも三田プリンスの練習には毎回20~30人が参加。大きな声をかけ合い、日々の自己管理も怠らない。

 長尾さんは80歳を超えた今も選手登録し、試合にも出場する。監督の宮崎義郎さん(70)は「打ったら走るわ盗塁するわで、すごいです」と感心しきり。長尾さんは「みんなで仲良く楽しく元気よく、けがをせず続けていきたい」と笑顔を見せる。(土井秀人)