2016年に起きた熊本地震で、ある家族を取材させてもらった。1階がひしゃげた2階建ての家の前に、近所の住民たちが集っていた。話を聞き、写真を撮らせてもらいたい-。ゆっくりと近づく。被災地ではいつものことだが、後ろめたさがぬぐいきれない。拒まれ、怒鳴られるのもつらい。
でも、その人たち-田上さん一家は取材のお願いを受け入れてくれた。出張中の1週間、毎日訪れても嫌な顔もせず、壊れかけた1階にまで招き入れてくれた。1年後に再訪したとき、その家族は仮設住宅に移っていたが、家屋が取り壊され、更地になった場所で撮影に応じてくれた。
ただ、こんなことは極めて稀だ。
◇
教訓の継承には「30年限界説」というものがあるらしい。