昨年10月、稲を収穫する岩崎達也さん。耕作放棄地を耕した=三木市久留美
昨年10月、稲を収穫する岩崎達也さん。耕作放棄地を耕した=三木市久留美

 迫る夕暮れ。2階の窓から、開けた南側を眺める。秋には黄金色の稲穂が波打っていた田んぼの先に、神戸電鉄沿いの住宅街や旧城下町の明かりが瞬く。

 正式オープンに向けて準備が進む、農業体験宿泊拠点の「心拍(しんぱく)」。その建物は三木市を流れる美嚢川の北側、八雲社の周辺に民家と田んぼが集まる久留美地区の一角にある。

 もとは木造2階建ての一軒家。太平洋戦争終戦の翌年、戦地から戻って結婚した若夫婦のために建てられたという。お世辞にも「古民家」としての価値が高いとはいえない。

 それが昨秋、生まれ変わり始めた。小さな庭を囲むように増築された納屋があり、小さな農作業小屋があり、農村風景を壊さない程度におしゃれなキッチンカーまである。

 昭和の終わりから平成にかけて、家族5人が暮らした家。工事中の建物に、その痕跡はほとんど残っていない。

 ただ、建物内の中心に、不思議な丸みを帯びた白い壁があった。明るさとぬくもりを感じる。それは、酒米の中心にある「心白」のような存在感を放っていた。

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 京都市に拠点を置く企画会社「マガザン」代表の岩崎達也(39)は、この家で生まれ育った。今は久留美を離れ、妻と4歳の娘と、京都で暮らす。