およそ半世紀ぶりという乾杯を楽しむ参加者。重要文化財で味わうお酒は格別…!?=風見鶏の館
およそ半世紀ぶりという乾杯を楽しむ参加者。重要文化財で味わうお酒は格別…!?=風見鶏の館

 神戸・北野の「風見鶏の館(旧トーマス住宅)」で、イベント「ナイトトークライヴ 坂の上の風見鶏」が開かれ、参加者約30人がおよそ半世紀ぶりとされる「乾杯」を楽しんだ。国の重要文化財に指定されて以降、神戸市は館内での飲食を禁止してきたが、社交の場だった建物本来の役割を取り戻し、文化財の保存展示から活用へと新たな一歩を踏み出した。(高田康夫)

 ドイツ人貿易商人G・トーマス氏の邸宅として1909(明治42)年ごろに建てられた異人館街のシンボル的な洋館。木造2階建てで、高級感のある1階の応接間や食堂では、多くの人が飲食を楽しんでいたとみられる。

 68年に神戸中華同文学校の学生寮となり、78年に重文に指定されて神戸市が所有してからは、飲食禁止に。水一滴たりとも飲んではいけなかった。

 今年7月、耐震工事による約1年9カ月の休館を経て一般公開を再開。重文としての価値を踏まえつつ、本来の社交の場としての活用を広げようと、館内で酒を楽しむイベントを初めて企画した。

 用意したのは、神戸ワインの白やスパークリングの日本酒など。万が一こぼしても汚さないように、赤ワインは控えたという。参加者は「乾杯!」と声を合わせ、豪華なシャンデリアに向けてワイングラスを掲げた。

 有識者の講演もあり、万博の歴史に詳しい大阪国際大学の五月女賢司准教授は、風見鶏の館が万博と同じように異文化交流や世界への発信拠点になり得ると評価した。文化庁の中尾智行参事官も「異人館街の景観は唯一無二の文化遺産」とし、価値や魅力を観光客や地域住民と共有する必要性を説いた。