ユーチューバーらが構えたカメラの前で、千葉県知事選の演説をする立花孝志容疑者=2025年3月、神戸市須磨区
ユーチューバーらが構えたカメラの前で、千葉県知事選の演説をする立花孝志容疑者=2025年3月、神戸市須磨区

 昨年11月に兵庫県議を辞職し、今年1月に死去した竹内英明氏に関する虚偽の情報を発信し、名誉を傷つけたとして、兵庫県警捜査2課は9日、名誉毀損(きそん)の疑いで、政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志容疑者を逮捕した。被害者が死亡した後の名誉毀損での立件は異例とみられる。

 竹内氏の妻が6月、同容疑で県警に告訴していた。

 立花容疑者の逮捕容疑は、竹内氏の名誉を傷つけようとして2024年12月13~14日、自身が立候補していた大阪府泉大津市長選の街頭演説で、「何も言わずに去っていった竹内県議は、めっちゃやばいね。警察の取り調べを受けているのは多分間違いない」などと発言、25年1月19、20日には交流サイト(SNS)や他市の市議会補欠選挙の応援演説で「竹内県議は、昨年9月ごろから兵庫県警からの継続的な任意の取り調べを受けていた」「竹内元県議は、どうも明日逮捕される予定だった」などと虚偽の情報を投稿し、不特定多数の人に閲覧させたり、発言したりして竹内氏の名誉を傷つけた疑い。

 県警は捜査上の支障が出る恐れがあるとして、立花容疑者の認否は差し控えるとしている。

 死後の名誉毀損は、未必の故意か確定的な故意が必要かで学説分かれていて、そこがポイントになる。県警は「今後の捜査で明らかにしていく」などと説明した。

 妻や代理人弁護士によると、県の告発文書問題を巡り、竹内氏は県議会調査特別委員会(百条委員会)の委員として問題を追及。交流サイト(SNS)で「斎藤元彦知事失職の黒幕」などとする投稿が拡散され、攻撃の矛先になった。

 告訴状によると立花容疑者は昨年12月、街頭演説で「(竹内氏が)警察の取り調べを受けている」などと言及したとしている。SNS上などで中傷が集中し、竹内氏は「うつ状態」と診断され、今年1月18日に自死した。

 竹内氏の死後も、立花容疑者は「明日逮捕される予定だった」などと発言した。

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 同問題を巡っては2024年3月、斎藤元彦知事らを告発する文書を作成した県民局長=同年7月に死去=を県が解任し、同年5月に停職3カ月とする懲戒処分を発表。同年6月には県議会が百条委員会を設置し、竹内英明氏が同委員会委員として追及していた。

 誹謗中傷や嫌がらせを受けていたとされる竹内氏が同年11月に議員辞職し、今年1月18日に自死とみられる形で死去すると、立花容疑者は、同氏が兵庫県警の捜査対象になっているという趣旨の発信を交流サイト(SNS)などで重ねた。

 当時の村井紀之本部長は直後の県議会で「全くの事実無根」と異例の答弁をした。立花容疑者はその後、投稿を削除するなどし、動画投稿サイトの自身のチャンネルを更新。「兵庫県警御免なさい。竹内元県議のタイホは私の間違いでした。」と題し「警察の逮捕が近づいていて、それを苦に自ら命を絶ったということについては間違いでございました」などとした。

 一方、斎藤元彦知事は県警本部長が異例の答弁をした今年1月20日、報道陣の取材に応じ、竹内氏に対する誹謗中傷が拡散している現状については「SNSは、いい使い方、冷静な使い方をすることが大事」と述べるにとどめていた。

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 竹内氏の妻は、今年8月の会見で、刑事告訴した理由について「夫の尊厳を守れるのは私しかいない。だから声を上げようと決心した」と説明した。竹内氏に対する誹謗中傷は、昨秋の兵庫県知事選から始まったとし、「声を上げられない人間を痛めつけ、追いやる行為が許されていい訳がない。夫の死を無駄にしたくない」と涙ながらに語っていた。

 妻によると、竹内氏への誹謗中傷が始まったのは、知事失職を企てた「黒幕」と竹内氏を名指ししたのがきっかけだった。妻は「反論すらできず、絶望の中で息をひそめることしかできなかった」としていた。

 一方、告訴された立花氏は同月の会見で「違法性が阻却されるだけの根拠を持って発言している。不起訴、あるいは無罪を確信している」と主張。竹内氏が百条委で斎藤氏を追及していたことに触れ「黒幕であると、誰でもそう思うじゃないですか」と述べていた。