連日多くの来場者でにぎわった大阪・関西万博。会期中、各国や企業のパビリオンでは、華やかな外観や個性的な展示に加え、スタッフのユニホームも会場を彩った。万博に出展した兵庫県内の企業などを取材すると、「レガシー(遺産)として今後も制服を活用する」との声が聞かれた。帽子や靴など、神戸発のアイテムもスタッフを支えた。(谷口夏乃)
パビリオンを単独で出したパソナグループ(東京)は、一般来客用のユニホームに加え、VIP接客用のドレスを用意した。VIP用は、神戸市のデザイナー、藤本ハルミさん(98)が担当。これまで西陣織や友禅染などの素材を生かしたオートクチュール(高級注文服)を手がけており、今回も京都・祇園の山鉾(やまほこ)や松竹梅などの柄が描かれた着物や帯を使い、世界に一点だけのドレスを作った。
一般用は社内のデザイナーが手がけた。建物の外観と同じアンモナイトのらせんを取り入れ、生命の進化などを表現。VIP用のドレスを引き立てる柔らかな色合いのピンクや緑を用い、襟や胸元、ウエスト周りには着物地のアクセントを施した。淡路島にパビリオンを移設した後の活用は検討中だが、同社は「すてきな衣装のため、レガシーとして残していきたい」(広報担当者)としている。
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「究極のえきそば」を提供したまねき食品(姫路市)は、竹田典高社長の知人を通じて、コシノミチコさんにユニホーム製作を依頼した。コシノさんは「日本のかっこよさが伝わるデザイン」というオーダーを基に、制服の前面に「箸」を持った手を描き、背面には「まねき」と「ミチコ」の名をローマ字で配した。
「万博出展という挑戦と、挑戦を支えてくださったお客さまやスタッフなど、多くの方々への感謝の象徴として今後も活用していく」と広報担当者。引き続き店員らが着用し、オンラインショップでも販売する。
小麦アレルギーがある人も食べられる「グルテンフリー(GF)」のラーメンが好評だったケンミン食品(神戸市中央区)は、胸元に店名「GF RAMEN LAB」を記した黒地のTシャツやキャップ帽でそろえた。商品開発で協業した大西益央さんが米国で経営する人気ラーメン店「Tsurumen」のユニホームに着想を得た。
GFラーメンの店舗は、12月に改装オープンする「健民ダイニング」(同)の水曜定休日に間借りして営業し、万博で使ったユニホームを着用するという。
■神戸ブランドの帽子や靴も登場
県内の企業が着用アイテムを手がけた例もあった。日本館のハットとキャップは、帽子製造の老舗マキシン(同)が製作。主に和紙を使った糸でメッシュ状に編み、重厚な色合いながら軽さと通気性を実現した。酷暑が続いた夏場も「蒸れることなく、不快に感じることはなかった」とスタッフに好評だったという。
大阪ヘルスケアパビリオンのスタッフのシューズは、靴製造のノームス(同)のブランド「オッフェン」が選ばれた。オッフェンは、使用済みペットボトルをリサイクルした素材を使うなど環境に配慮したものづくりをしており、「REBORN(リボーン)」がテーマの同パビリオンとの親和性が評価された。定番モデルをベースに、濃い青を配色。白と青のグラデーションの制服に調和させた。
同パビリオンのユニホームは再資源化を前提に作られており、かばんと靴以外は回収された。同社は「靴は各自の判断で、日常生活などで活用してもらうよう伝えている」としている。
■洋服文化リード、産業に刺激 1970年はミニルック、原色、ポップに 2025年はジェンダーレス、環境配慮
1970年の大阪万博では、大流行していたミニスカートのほか、原色を中心としたポップな印象のユニホームが多く見られ、その後の洋服文化をリードした。一方、今回の大阪・関西万博は白や黒の無彩色や彩度の低いカラーが増え、性別や年齢を問わないデザインが主流となった。暑さを想定した機能性や、環境に配慮した素材も目立った。
日本館のユニホームは、着物の構造をベースにした黒に近いチャコールグレーの一型のみ。帯状のベルトや複数種類のスカーフ・帽子などでコーディネートし、個性が出るようにした。リサイクルしやすいようボタンやファスナーは使わず、素材に植物由来のポリエステル繊維などを用いた。
慶応大の宮田裕章教授のテーマ館は、淡い緑と青が基調の男女共用服を採用。シャツは左右どちらでも前合わせができるようにした。多様な個を表現するため、最新のプリント加工技術でアイテムの柄が1点ずつ異なる設計にした。
暑さ対策も施し、製作を担ったゴールドウイン(東京)は、今回のために紫外線の遮蔽(しゃへい)率と太陽光の反射率を高めた新しい生地を素材メーカーと開発した。
70年万博の際は、ミニルックなどの洋服文化が定着したほか、新素材として合成繊維が普及。既製服産業が急成長するきっかけとなった。今回の万博で見られたジェンダーレスの服や環境に配慮した素材などは、既に市場に登場し始めており、こうした衣料品の開発がさらに進む可能性がある。(谷口夏乃)
























