兵庫・神戸を舞台にした経済小説の傑作であり、城山文学の最高峰といってよい。城山三郎は志願して少年兵で入った海軍での不条理な体験を原点として終生、「組織と個人」の在り方を追究した。描いたのが時代の奔流に揺さぶられながらもひたむきに生きた人間の姿だ。1966(昭和41)年刊の本作は鈴木商店の焼き打ちから破綻に至る大正から昭和の世情に迫り、80年刊の「男子の本懐」は昭和初期の金解禁をめぐる攻防を描いた。2作を通して読むと、相次ぐテロなど暗い時代の危険な予兆とともに、「恐慌から戦争へ」という歴史の非情と戦禍の犠牲が痛切に感じられる。