■閉じた世界 歪んだ接待
潜水艦やその乗組員のことを海上自衛隊関係者は「どん亀」と呼ぶそうだ。戦前からの呼称で、水上艦に比べて速度が遅いことに由来しているという。
動きは遅くても、日本の潜水艦の隠密性は、世界の軍事関係者から一目置かれている。海中に身を潜め、ソナーで受信した音波の特徴から相手国の動向を探る。その静粛性について、関係者は「米国の原子力潜水艦がダンプカーぐらいの音なら、日本の潜水艦はメダカぐらい」と表現する。
この関係者によると、最もきついのは「沈潜無(ちんせんむ)」という任務だそうだ。海底に艦を置き、スクリューも止め、音を立てずに何日も過ごす。調理もできず、食事は缶詰や非常食でしのぐ。トイレで流す水も大きな音が出ない仕組みになっている。緊張状態がいつまで続くか分からない点が、心身にこたえるという。
乗組員は約70人。水中吸音材で覆われた艦内には、ディーゼルエンジンや蓄電池、魚雷、電子機器などがびっしり搭載されている。プライベートな空間は就寝用の3段ベッドの中だけ。昼夜の区別は白色灯(昼)と赤色灯(夜)で認識する。携帯電話は使えず、酒、たばこは厳禁。水は貴重品でシャワーは3日に1回。新鮮な空気が吸えず、制服はディーゼルエンジンのにおいがこびりつく。
現役の乗組員に「何日間航行するのか」と聞いたことがある。「『秘』です。それを言ったら首になります」と即答された。家族にも行き先や日程を告げてはいけないという。
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