29日の外国為替市場では、連休気分を吹き飛ばすように円相場が一時1ドル=160円台と34年ぶりの円安を記録した。一夜明けた30日、2024年3月期の決算発表に臨んだ関西の企業トップらは、好業績につながる円安の恩恵を歓迎する一方で、極端な円安が個人消費などへの悪影響につながると懸念を示した。
JR西日本は23年度、インバウンド(訪日客)の運輸収入が過去最高の355億円となった。長谷川一明社長は「円安で訪日客の利用が増える可能性はある」と語りながら、1円の円安で約2億円のコスト増になるとした。「過度な円安はもろ手を挙げて歓迎できず、功罪あると思う」と複雑な胸の内を明かした。
関西電力も24年度、1円の円安で、液化天然ガス(LNG)や石炭の調達コストが50億円膨らむと試算する。森望社長は「決して小さくない。円安で燃料費が上がり、構造的に電気代負担を増やしかねないので、極端な変化は好ましくない」と懸念を示した。
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姫路を拠点とする電炉2社は受け止めが分かれた。輸出比率が2割程度という山陽特殊製鋼(姫路市)の宮本勝弘社長は「原料の鉄スクラップは国内で調達するため、円安による大きな影響はない。ただ、取引先は輸出比率の高い企業が多い。それなりの値上げ交渉をさせてもらっている」と明かした。
経常利益の70~80%を海外子会社が稼ぐ大和工業(同)の古寺良和常務執行役員は「米国事業は収益の柱。円安は間違いなく業績にプラス」と断言する。ただ、日本事業は原材料価格や電力料金の上昇が利益を圧迫する。「為替の急激な変動は価格転嫁などの対応が難しく、好ましくない」と話した。
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家計の不安は日々の食費だ。円安が進み「(輸入に頼る)食材の価格が高くなったら困る。海外旅行にも気楽に行けない」と話すのは、神戸市北区の無職男性(75)。政府・日銀が為替介入したとささやかれることには「効果は一時的でしかないだろう。先行きが不安」とこぼした。
尼崎信用金庫(尼崎市)の作田誠司理事長は「円安は輸入物価には当然影響するが、価格が上がりすぎてモノが売れなくなる状況ではない」と静観する。同信金は中小企業向け融資で兵庫県内最大規模の金融機関。神戸・阪神間に多くの取引先がある。「この円安水準が続くと原材料価格や光熱費がさらに上昇し、中小企業経営にとっては厳しくなる」と、今後の動向を注視している。(まとめ・高見雄樹)