労働基準法で定められているにもかかわらず取得率が低調な「生理休暇」を取りやすくするため、「F休暇」などに名称変更する動きが企業で広がっている。直接的な名称を変えることで心理的なハードルを下げるほか、人手不足の中で「働きやすい職場」をアピールする狙いもあるようだ。兵庫県内でも名称変更するだけでなく、体調不良の適用範囲を広げるなど制度の拡充に乗り出した企業がある。(石川 翠)
昨年9月、神戸市中央区の神戸製鋼所本社の会議室に、約100人の女性が集まった。同社と川崎重工業、住友ゴム工業(いずれも同市中央区)の3社やそれぞれのグループ会社で働く技術系の社員たちだ。
会合は、女性技術者のキャリア形成を考える合同の交流会で、3社が企画した。参加者はグループに分かれ、職場での悩みや課題を語り合った。複数のグループで挙がったのが「生理休暇制度があるのに取りにくい」という意見だった。
生理休暇は労基法で定められ、腹痛や頭痛など生理中の体調不良によって仕事に著しく支障が出る場合に請求できる。しかし2020年度の厚生労働省の調査では、生理休暇を請求したのは女性労働者の0・9%にとどまった。
◆「男性社員が多い中で言えない」
こうした現状を受け、今年4月、生理休暇を「F休暇」と変更したのが、金属表面処理加工業のトーカロ(神戸市中央区)だ。女性を意味する英語「female」の頭文字を取った。
同社は社員約800人のうち1割程度が女性だが、22年度に生理休暇を取得した総日数は6日しかなかった。労働組合が女性社員にアンケートを取ると、「男性社員が多い中で言えない」「生理だということを知られたくない」などの声が上がったという。
そこで同社ダイバーシティ推進室は改善策を検討。他社の情報を参考にしながら「名称を変えるだけでも効果があるのでは」と変更した。同時に、「生理期間中」としていた取得の条件も見直し、生理前に心身が不調になる月経前症候群(PMS)に伴う体調不良でも休めるようにした。
今後、社内報で制度変更を周知するほか、全社員がeラーニングで女性特有の健康課題を学ぶ機会も設ける予定だ。同社の担当者は「女性の採用に力を入れており、制度や風土を整えて誰もが働きやすい職場にしていきたい」と話す。
◆経済損失額5700億円の試算も
名称変更の先進例は、IT大手のサイバーエージェント(東京)だ。14年に「エフ休」と改称。さらに休暇取得の対象となる症状を生理に限らず、更年期での不調なども含めたところ、「取得日数が2倍になった」(広報担当者)という。
この動きは近年、他企業にも広がり、大和証券グループやサッポロビール、製薬会社のMSDなどが実施。名称は「エル休暇」「M休暇」「エクイティ休暇」などさまざまだ。県内でも神戸製鋼が23年に「エフ休暇」に変更した。
取り組みが進む背景として、女性の働き方の課題に詳しい日本総合研究所創発戦略センターの小島明子氏は「企業が経営的な視点で従業員の健康を管理する『健康経営』を評価する動きがある」と話す。
健康経営は政府も旗を振っており、経済産業省は今年2月、女性特有の健康課題による経済損失の試算結果を公表。生理に関連する症状に対して職場環境改善などの対策を取らなかったことで生じる経済損失は年間約5700億円とされ、内訳は欠勤が約1200億円、パフォーマンス低下が約4500億円だった。
小島氏は「就職活動時に制度を細かく確認する人は増えており、健康経営は売り手市場での人材確保と従業員の定着のために欠かせなくなっている」と指摘。仕事と育児の両立に関する制度は広がってきたが、女性の健康課題への認知度はまだ低いといい、「役員や管理職を中心に社内に啓発していくことが必要」としている。