「自分たちは『開発先導型活力企業』。新たな挑戦を進めていく」と話す六甲バターの塚本浩康社長=神戸市中央区坂口通1(撮影・小林良多)
「自分たちは『開発先導型活力企業』。新たな挑戦を進めていく」と話す六甲バターの塚本浩康社長=神戸市中央区坂口通1(撮影・小林良多)

 ベビーチーズやチーズデザート、スティックチーズなどでおなじみのチーズブランド「Q・B・B」。製造するのは、家庭用プロセスチーズ最大手の六甲バター(神戸市中央区)だ。創業家出身で4代目社長の塚本浩康氏(47)は入社から20年以上経験を積み、2021年3月に社長に就任した。その直後、いきなり重大な決断を迫られた。

 すぐに直面したのが、東京証券取引所の市場区分の再編でした。それまで上場していた東証1部から最上位の「プライム市場」に移るか、中堅企業向けの「スタンダード市場」にするか。22年4月の再編に向けて、社員の意見は役員を含めて二分されていました。

 社員みんなの思いは、商品を喜んで食べてくださる方にただただ提供し続けたいという純粋なもの。「株式の流通時価総額100億円以上」など、さまざまな条件を求められるプライムにわざわざ上場する必要があるのか、という声が想像以上に多かったんです。私も、その思いは理解できました。

 ただ、会社を成長させるには、投資家の方々を満足させるレベルの業績を上げ、透明性の高い会社に整えることが重要。きっと、未来の会社をつくっていく社員たちも「プライム」を誇りに感じてくれるはずだ、と。「皆さんの意見はよく分かったが、これはもう私の決断です」と説得しました。

 1960年に世界で初めてスティックチーズを発売。71年に日本初の個別包装スライスチーズ、72年には食べやすい大きさに開発したベビーチーズを売り出した。今年で創業75年。チーズ専業メーカーとしてトップシェアを誇る。

 世界初、日本初の商品を神戸から発信し続けています。ベビーチーズは昨年で発売から50年となりました。今も会社を支えています。

 変えずに残すものがある一方で、新しい挑戦をしないと時代に取り残されます。クリームチーズをベースに季節のフルーツなどを使った「チーズデザート」は2009年に発売しました。発売10年を超え、新しい商品作りにトライできる人材がどんどん育ってきています。チーズデザートは6ピースですが、例えば6ピースでなくてはならないとは思っておらず、いろんな可能性をお客さまに提供できないか、考えていきます。

 新市場の開拓も進める。22年秋には、オーツ麦からつくり「第3のミルク」ともいわれる植物性飲料の「オーツミルク」市場に参入。翌年1月には、新事業開発を視野にマーケティング本部を設けた。

 生のナチュラルチーズを使ったチーズアイスは、高級スーパーで取り扱っていただけるようになってきました。

 植物性の商品では、オーツミルクのほか、植物由来の代替チーズの開発も25年の大阪・関西万博を見据えながら進めています。チーズ好きが集まるコミュニティサイト「Q・B・Bチーズパーク」の開設など新たな販促方法にも取り組んでいます。

 創業した祖父の信男氏、現相談役で1985年から約30年間2代目社長を務めた父の哲夫氏(81)。創業家が事業を牽引する。

 父から仕事については何も言われてこなかった。小さい頃は、父は会社勤めの人かな、くらいの認識でした。入社を考えるようになる時まで、どんな規模の会社なのか、詳細には把握できていませんでした。(聞き手・大盛周平)

 時代を駆ける経営者の半生や哲学を紹介するマイストーリー。8人目は、六甲バターの塚本浩康社長に語ってもらう。

【六甲バター】1948(昭和23)年に平和油脂工業として創立。54年、現社名に。「Q・B・B」ブランドでチーズを展開し、60年に世界初のスティックチーズを開発。71年に日本初の個別包装スライスチーズを販売。2022年12月期の売上高は419億2400万円。従業員は448人。東証プライム上場。

【つかもと・ひろやす】1975年、神戸市中央区出身。葺合高、神戸学院大経済学部卒。2000年六甲バター。稲美生産部長などを経て13年に取締役。21年3月から現職。2児の父で、休日の家族キャンプではピザ焼き係を担う。今の自社のイチオシ商品は「チーズデザート」の「甘熟王バナナ」。