「黒くて丸いタイヤには、技術やノウハウが詰まっている」と笑顔で話す住友ゴム工業の山本悟社長=神戸市中央区脇浜町3(撮影・長嶺麻子)
「黒くて丸いタイヤには、技術やノウハウが詰まっている」と笑顔で話す住友ゴム工業の山本悟社長=神戸市中央区脇浜町3(撮影・長嶺麻子)

 「ダンロップ」ブランドで世界に知られる国内2位のタイヤメーカー、住友ゴム工業(神戸市中央区)。グループの従業員約4万人を率いるのは、長年にわたり営業畑を歩いてきた山本悟社長(64)。電動化や自動運転化など自動車業界の変化をチャンスと捉え、剣道で鍛えた「人間力」で逆境に挑む。2022年12月期連結決算では、創業110年を超える同社で、初の売上高1兆円の達成を狙う。

 自動車業界は100年に1度の変革期。車の進化に対応し、タイヤメーカーの立場から交通事故のない社会づくりに貢献したい。そんな思いで開発しているのが、タイヤの空気圧や摩耗、路面状況などを検知する独自技術「センシングコア」です。滑りやすい場所の情報を後続の車に伝えることなどが可能になります。

 24年に発売する計画で、まずは技術開発で先行しないといけません。そのための陣容を整えました。事業化に向けビジネスの経験者を入れ、そこに経営企画や経理、工場など各部門が連携して、スピード感を持って取り組める体制をつくりました。100億円以上の事業利益を目指し、号令をかけながら進めています。

 入社したのは1982年。学生時代はクラブ活動に明け暮れていた。就職のことは全く頭になかった。

 大学4年のある日、ゼミの先輩が、「住友ゴムという会社を訪問してみないか」と誘ってくれたんです。当時は前年に入社した社員が後輩を紹介する形の採用もしていて。大学院生だった先輩を通じて、私に話が来たようでした。

 上智大で剣道部にいたのですが、剣道は小学4年のころ、街で見かけた道場の練習風景に魅了されたのをきっかけに始め、それ以来ずっと続けてきました。3年では主将を務め、4年になっても秋の大会に向けてクラブに専念する日々。就職活動は皆無に近い状態でした。

 自動車が大好きで、ダンロップブランドのことはもちろん知っていました。住友グループへの興味もすごくありました。東京で面接を受け、入社したいとの思いを伝えると、総務部長から「神戸に行ってほしい」と言われました。

 その言葉に思わず「えっ、神戸に行くんですか」と聞き返してしまいました。本社が神戸にあることを、それまで知らなかったんです。

 無事に入社が決まり、神戸本社の商品開発室へ。マーケティングを担当する。

 商品開発室には約10年いました。当時、子会社の英国ダンロップが、センサーを一切使わず、タイヤの回転やエンジンの稼働状況からタイヤの空気圧変化を読み取る基礎研究をしていて、技術部門の部長と英国に出張した際、たまたま研究内容を聞く機会がありました。日本でどんな展開ができるか検討しようとしていたようです。

 私は商品開発室を離れましたが、その後、空気圧を検知する当社独自のソフトウエアが開発されました。今では、世界で約4600万台の新車に使われています。そこに新たな機能を持たせるのが、現在開発を進めているセンシングコアです。不思議な縁ですね。

 商品開発室を離れてからは、国内市販用タイヤの営業を担当。そこで、剣道で学んだ間合いの大切さを感じる出来事がありました。(聞き手・大島光貴)

     ◇

 時代を駆ける経営者はどんな道を歩み、未来をどう切り開くのか。その半生や哲学を紹介するマイストーリー。3人目は、住友ゴム工業の山本悟社長に、4回にわたって語ってもらう。

【住友ゴム工業】1909(明治42)年、英国ダンロップ社の日本支店として創業。63年に現社名に。「ダンロップ」「ファルケン」ブランドで展開するタイヤ事業のほか、ゴルフクラブやテニスラケットなどのスポーツ事業、制震ダンパーなどの産業品事業を手がける。2021年12月期の連結売上高は9360億円。

【やまもと・さとる】1958年埼玉県生まれ。上智大経済学部卒。82年住友ゴム工業入社。執行役員ダンロップタイヤ営業本部長や取締役常務執行役員アジア・大洋州本部長などを経て2019年に社長就任。社長在任中は車の運転ができないため自宅近くの散策を楽しむ。神戸市東灘区在住。