男子部員はわずか10人。半数は、熱心に誘われて野球を始めた初心者だ。打てなくても構わない、勝てなくても楽しもう-。吉川の練習風景は明るさに満ちている。 県立高の統廃合により来年度末での閉校が決まっており、1年生はいない。といっても、3学年がそろっていた時から部員は少なかった。主将の増田珀(はく)は1年生の時、連合チームとして兵庫大会に臨み、初戦で敗退。「意思疎通が不十分で、チームワークが難しかった」と振り返る。 当時、一つ上の学年は2人。増田の学年は1人だけ。たった3人の新チームが発足したが、次の夏も単独での出場は困難に思われた。状況を変えたのは、河村遥斗前主将だった。春、新入生を前にした部活勧誘で「単独で兵庫大会に出たい。初心者でも一緒に楽しもう」と訴えた。思いが届き、男子8人、女子2人が入部。昨夏、そして今夏も、単独チームでの出場がかなった。 小川凌吾監督はグラブの使い方や、ボールの握り方から教えた。「野球の楽しさを伝えるようにした」という。 初心者ならではの喜びが、小さな成功体験だ。初めての捕球、初ヒット、初盗塁…。多くの球児が小中学生の頃に経験する「人生初」の瞬間を、部員たちで祝福し合う。試合では大敗がほとんどだが、ナインの表情に暗さはない。 2年生の人数を考えれば、単独出場できるのは最後になるかもしれない。連合と単独チームの両方を経験した増田主将は「せっかくの単独チームなので、試合中の声かけや連係を徹底したい」。仲間と一緒に戦える夏を楽しみにしている。(伊田雄馬)