鵜飼 卓さん (76)
兵庫県災害医療センター顧問/西宮市
鵜飼 卓さん (76)
兵庫県災害医療センター顧問/西宮市
年配の男性が戸板に載せられ、運ばれてきました。崩れた家屋から救出され、周りの人は「つい、さっきまでしゃべっていた」と言います。でも、命を救えなかった。
当時は大阪の病院勤務でしたが、あの朝、応援に飛び込んだのは、くしくも後に僕が院長を務める兵庫県立西宮病院。患者が殺到し、修羅場でした。
男性はがれきに筋肉を圧迫され、救出後に腎不全や心不全を起こす挫滅症候群。十分な医療さえあれば避けられたはずの死が、震災で相次ぎました。悔しくて。がれきの下で治療したり被災地の外へ重傷者を搬送したりするシステムの必要性を訴えてきました。
全国で災害派遣医療チームが発足、広域医療搬送もできるようになりました。でも、東日本大震災では医療が必要な重傷者は少なかった一方、劣悪な避難環境の中で体調を崩す「関連死」が阪神・淡路以上に多発したんです。
僕ら医療従事者は災害時、最も弱い立場の人たちに接します。その時の状況を行政や社会に伝え、改善につなげるのも災害医療の役割だと思います。
(聞き手・石崎勝伸、写真・宮路博志)=おわり=
神戸市中央区脇浜海岸通1