あの日の記憶 傍らに
炊き出しの鍋 囲みながら

池田美代子さん (70)
おでん居酒屋経営/神戸市長田区

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あの日の記憶 傍らに
炊き出しの鍋 囲みながら

池田美代子さん (70)
おでん居酒屋経営/神戸市長田区

 居酒屋を始めて16年になるけど、名物のおでんを煮るのは、今も避難所の炊き出しで使われてた大鍋。お世話になった人や、食べ物のぬくもりをずっと忘れないでいようと思ってね。ボランティアから譲り受けました。
 19歳で嫁いだ神戸・長田の日吉町は、震災で一帯が焼けてね。26人が亡くなるひどい被害でした。私はね、家はなくなったけど、主人も主人の母も無事。でも、先の見えない不安からかなぁ。ノートに「死にたい」って何度も書いたりしてね。主人にもこぼすから「そんなごちゃ言うな」ってよく困らせてた。
 主人は町内会長で、町の復興のために走り回る日々。震災から半年すぎたころ、心労から突然心筋梗塞で亡くなりました。ただでさえストレスがあったのに―と思うと、今もつらい。
 この町の人は、苦労して一緒に立ち上がってきたの。私は震災から3年の春に自宅を再建して、間もなく始めたのがこの居酒屋。だから鍋は再出発のパートナー。これからもカウンターのお客さんと鍋を囲んで「わぁわぁ」やっていきます。主人もにぎやかなのが大好きでしたから。(宮路博志)
=おわり=


2014年10月24日掲載
写真撮影場所:

神戸市長田区日吉町5、おでん居酒屋「紙ふうせん」