西本一夫さん (65)
銭湯経営/神戸市北区
西本一夫さん (65)
銭湯経営/神戸市北区
うちの店の入り口はこんな引き戸になっています。昔の銭湯みたいでしょ。実は1932(昭和7)年に祖父が創業した時の脱衣箱の扉なんです。震災後、再建する時に引き戸にはめこみました。
震災で店は半壊、隣の実家は全壊しました。1人で住んでいた兄は無事。私も北区に住んでいて大丈夫でした。でもこのあたりは被害が大きかった。
実家がさら地になった時、温泉を掘ろうと決意しました。代々温泉を掘るのが夢でしたから。翌年の秋、地下から約32度の湯が出た時はうれしかったなぁ。
脱衣箱は地震で一部壊れました。神戸空襲でも無傷やったのに。店とまちの歴史を刻んできたものやから、絶対残したかった。再開した店の玄関にしたら、通りすがりの人にも見えるかなと。
周りは再開発で高層建物が増えて、震災前の下町風情はなくなりました。きれいな街になるのはええことやけど、人とのつながりが希薄な世の中になってほしくない。この引き戸の向こうで、裸のつきあいをしてもらえたらと思います。(中西大二)
神戸市灘区備後町3、灘温泉六甲道店