手作りの誇り 失わず
なじみ客らの声に押され

中井松幸さん (78)
革靴職人/ 神戸市東灘区

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手作りの誇り 失わず
なじみ客らの声に押され

中井松幸さん (78)
革靴職人/ 神戸市東灘区

 震災で自宅兼店舗が全壊した時、ぼんやり座り込んで思った。もう靴作りはだめかなと。けど、なじみのお客さんが言うんよ。「あんたの靴がなかったら、私ら困るねん」って。足の悩みを抱えとる人は結構おって、歩行補助具が必要な人、地震で障害を負った人もおる。そんな人たちの顔を見て、もういっぺん頑張る気になれた。
 父母の代から一家で靴作り一筋。でも小さい時に父親を亡くして、小学校に入ったらすぐ、母親の手伝いを始めた。あの頃は傷痍(しょうい)軍人さんもいて特注で作ったりした。けど、母親の作る靴は単価が安くて悔しい思いをした。だから絶対いい職人になったると、修業にも出て必死で働いた。
 革は種類や部位で伸び方が違うんよ。靴の、どの部分にどの革を使うかで履き心地が変わる。そういう細やかな仕事ができるんは手作りならではやし、職人のやりがいやな。この仕事場で修業した弟子が11人、全国で店を開いて頑張っとる。わしは嫁はんと2人、仕事がくる限りぼちぼちやっていけたら幸せやな。(三浦拓也)


2014年11月17日掲載
写真撮影場所:

神戸市東灘区住吉宮町1、靴の中井