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(5)区切り 桜に込めた再出発の思い
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震災から12年後のマンション再建。住民らが桜を植樹し、工事中の安全を祈った=神戸市灘区桜ケ丘町
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震災から12年後のマンション再建。住民らが桜を植樹し、工事中の安全を祈った=神戸市灘区桜ケ丘町

震災から12年後のマンション再建。住民らが桜を植樹し、工事中の安全を祈った=神戸市灘区桜ケ丘町

震災から12年後のマンション再建。住民らが桜を植樹し、工事中の安全を祈った=神戸市灘区桜ケ丘町

 前夜からの雨がやんだ十七日午前。神戸市灘区桜ケ丘町のマンション「グランドパレス高羽」(百七十八戸)の跡地で、再建に向けた安全祈願祭があった。

 「建物がないので、実感はまだわきませんね」

 再建後に入居を予定する坂本典子さん(61)は、そう言いながらも少しほっとした表情になった。

 震災まで、ここがわが家だった。一九八〇年に入居する前、近くの社宅に住みながらわくわくした気持ちで建設を待った。その建物が「全壊」の判定を受けて十二年。紆余曲折(うよきょくせつ)を経てたどり着いた「二度目」の建設が、これから始まる。

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 「十二年間のことは、語り尽くせない」という。

 グランドパレスは、三棟が連結した建物だった。震災の被害は、棟や部屋によって大きな差があった。当初、市の判定は「半壊」だったが、住民の指摘で「全壊」に変わった。

 補修か、建て替えか。住民は選択を迫られた。坂本さんは「安心して住みたい」と建て替えを望んだ。ただ、「補修を望む人の意見も聞きたい」と思った。建築に素人の自分には判断材料が乏しすぎた。小学校の避難所で仲良くなった住民と一緒に、補修派の集会にも足を運んだ。

 九七年一月、建て替えが決議された際の賛成者は、坂本さんも含め83%。建て替えに必要な「五分の四」は超えたが、「反対」も一割を超えた。

 住民間の裁判になった、その後の長い年月を考えると、「情報を公開し、話し合うことの大切さ」は教訓として痛感している。

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 坂本さんの場合、ローン残金の約五百万円は、夫憲治さん(64)の退職金で返済した。

 しかし、震災後に借りた賃貸住宅の家賃は月九万円。その出費は大きかった。「払う額が変わらないなら」と、七年前、同じ灘区内に築約二十年のマンションを買った。

 別のマンションを買っても、「必ず戻る」という気持ちは揺るがなかった。どこに行っても、「自分にとっては仮住まい」としか思えなかった。ただ、戻るときの経済的負担を考えると、不安はぬぐえなかった。

 坂本さんは靴の型を作る会社で、憲治さんは嘱託社員として現役で働く。が、ともに六十を超えた今、資金を借りられるのか。

 不安を抱える夫婦を救ったのは、昨年、住宅金融公庫から送られてきた書類だった。十年前の建て替え決議後に交わした被災者向けの低利融資の仮契約が、まだ生きているという。

 「うれしくて涙が出て。公庫に相談に行った後、書類を仏壇に供えました」

 昨年十一月、マンション解体の様子を一人で見に行った。ほぼ更地になっていた。現場の警備員に「私、ここにいたのよ。帰ってくるから」と思わず話し掛けていた。

 十七日、マンション敷地には一本の桜が植えられた。この間に亡くなった住民もいる。さまざまな事情で戻れない住民も多い。

 「戻れる私は、幸せだと思う」

 完成は来年秋。坂本さんにとっての震災はその時、一つの区切りを迎える。

2007/1/18
 

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