「姫」と呼んでくれる家族と出会えた元野犬の蓮ちゃん(ご家族より写真提供)
「姫」と呼んでくれる家族と出会えた元野犬の蓮ちゃん(ご家族より写真提供)

 岡山市に暮らす坂本さんご一家は、今年6月に迎えた元保護犬・蓮ちゃんのことを時々、「姫」と呼ぶそうです。「うちの大切な姫と言ってくれる里親さんと出会えて、本当に良かった」。そう言って微笑むのは、蓮ちゃんの保護に携わった赤堀淳さん。岡山市を拠点に猫と犬の保護・譲渡活動を行っている『NPO法人Equal Life(エクアルライフ)』の副理事長で、主に“犬部門”を担当しています。

 保健所を通じてエクアルライフに連絡があったのは、昨年11月のこと。市内のある会社から「敷地内に野犬が3匹住み着いている。なんとか捕獲してほしい」という依頼があったと言うのです。

 赤堀さんたちが現地に行ってみると、オス犬とメス犬が1匹ずつ、その2匹の子供と思われるやや体の小さいメス犬1匹がいました。その子犬が今の蓮ちゃん。当時は仮名として「サチ」と呼ばれていました。

「サチは多分そこで生まれて、会社の広大な敷地からは出たことがないと思われました。親犬たちに比べると警戒心が弱く、いつも僕の車の周りを遠巻きに走りながら、ワンワンと吠えて食べ物を催促している感じでしたね」(赤堀さん)

 3匹一緒に捕獲できるようにと大きめの仕掛けを製作し、囲いの中に食べ物を置いて様子を見ましたが、なかなか同時に入ってくれません。それでも根気強く餌付けを続け、ようやく一番臆病な母犬も一緒に入ってくれるようになったタイミングで「捕獲決行」を決めた赤堀さん。仲間たちと一緒にその日を迎えましたが、いざ決行!となった時、サチが人間の存在に気づいて吠えだし、囲いに入ってくれなくなりました。

 延期も考えられましたが、そうはできない事情がありました。母犬のお腹が大きかったのです。とにかく母犬の保護が最優先。赤堀さんたちは囲いに入らないサチ以外の2匹を保護することを決め、仕掛けの扉を落としました。まだ小さいサチはひとりぼっちで取り残されることになったのです。

 両親がいなくなるとサチは姿を消してしまいました。囲いの中にフードを置いてカメラで監視しましたが、近寄った形跡すらありません。100メートルほど離れた林の中にいると分かったのは数日後のこと。それまでの経験から、しばらく囲いには入らないと判断した赤堀さんは、他の場所で餌付けすることにしました。

 それから毎日、朝と夕方にフードと水を補充しに通うこと約2週間。新たな仕掛けを設置して、その中でごはんを食べるようになるのを待ち、11月17日、ようやくサチを保護することができました。

「まだ生後4~5か月だったと思います。突然、親がいなくなり不安だったでしょうが、よく半月ひとりでがんばってくれました。初めて参加した譲渡会でご縁がありましたし、本当に良かったです」

 本来、陽気な性格で、会社の敷地内をよくひとりで走り回っていたというサチ。エクアルライフに来た当初は人の手に固まることもあったそうですが、気が付けば犬舎で一番の元気印に!坂本家でも最初はごはんの食いつきが悪かったようですが、もうすっかり慣れて、今では自分のごはんを食べ終えると、家族の夕飯にも参加して“おこぼれ”を催促しているのだとか。幸せな“家庭犬”になったことが写真からもうかがえます。

 父犬のカイくんと母犬のクララちゃんも、保健所経由で今はエクアルライフの犬舎に。新しい家族との出会いを待っています。

(まいどなニュース特約・岡部 充代)