エッセー・評論

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ミラノのシンボル、ドゥオーモ・ディ・ミラノ(撮影: Christian Davis) ドゥオーモとスカラ座を繋ぐ美しいアーケード「ガレリア・ヴィットリオ・エマヌエーレ2世」(撮影: Christian Davis) ルネサンス建築の総本山ともいえるフィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂(通称「花の聖母教会」) アルノ河に架かるポンテ・ヴェッキオ。イタリア語で「古い橋」の意 装飾に装飾を重ねた教会芸術。壁画に差すステンドグラスからの光が美しい
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ミラノのシンボル、ドゥオーモ・ディ・ミラノ(撮影: Christian Davis)

ドゥオーモとスカラ座を繋ぐ美しいアーケード「ガレリア・ヴィットリオ・エマヌエーレ2世」(撮影: Christian Davis)

ルネサンス建築の総本山ともいえるフィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂(通称「花の聖母教会」)

アルノ河に架かるポンテ・ヴェッキオ。イタリア語で「古い橋」の意

装飾に装飾を重ねた教会芸術。壁画に差すステンドグラスからの光が美しい

  • ミラノのシンボル、ドゥオーモ・ディ・ミラノ(撮影: Christian Davis)
  • ドゥオーモとスカラ座を繋ぐ美しいアーケード「ガレリア・ヴィットリオ・エマヌエーレ2世」(撮影: Christian Davis)
  • ルネサンス建築の総本山ともいえるフィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂(通称「花の聖母教会」)
  • アルノ河に架かるポンテ・ヴェッキオ。イタリア語で「古い橋」の意
  • 装飾に装飾を重ねた教会芸術。壁画に差すステンドグラスからの光が美しい

ミラノのシンボル、ドゥオーモ・ディ・ミラノ(撮影: Christian Davis) ドゥオーモとスカラ座を繋ぐ美しいアーケード「ガレリア・ヴィットリオ・エマヌエーレ2世」(撮影: Christian Davis) ルネサンス建築の総本山ともいえるフィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂(通称「花の聖母教会」) アルノ河に架かるポンテ・ヴェッキオ。イタリア語で「古い橋」の意 装飾に装飾を重ねた教会芸術。壁画に差すステンドグラスからの光が美しい

ミラノのシンボル、ドゥオーモ・ディ・ミラノ(撮影: Christian Davis)

ドゥオーモとスカラ座を繋ぐ美しいアーケード「ガレリア・ヴィットリオ・エマヌエーレ2世」(撮影: Christian Davis)

ルネサンス建築の総本山ともいえるフィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂(通称「花の聖母教会」)

アルノ河に架かるポンテ・ヴェッキオ。イタリア語で「古い橋」の意

装飾に装飾を重ねた教会芸術。壁画に差すステンドグラスからの光が美しい

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  • アルノ河に架かるポンテ・ヴェッキオ。イタリア語で「古い橋」の意
  • 装飾に装飾を重ねた教会芸術。壁画に差すステンドグラスからの光が美しい

 2月になると必ず思い出す。ヴェルディ生誕200周年にあたる、2013年のイタリアで過ごした1週間を。

 【ミラノ】 ジュゼッペ・ヴェルディ。「オペラ王」の異名を冠するイタリアの大作曲家は1813年生まれ。代表作は、椿姫、アイーダ、運命の力、リゴレット… と枚挙にいとまがない。

 今から9年前の2013年2月、そのオペラ王が最晩年に作曲した喜劇「ファルスタッフ」のチケットを幸運にも手に入れた私はミラノへ飛んだ。会場は天下のスカラ座である。

 開場前、知人の音楽家がジェラートとエスプレッソをごちそうしてくださった。木管楽器奏者の彼は、スカラ座管弦楽団で演奏すること数十年。普段から実際の劇場と同じ環境で練習できないだろうかと熟慮した結果、自宅練習室の音響設備を整えた上、なんと壁にスカラ座と全く同じ深紅の壁紙を貼り、小型版スカラ座のような空間を完成させてしまったそうだ。芸術にかける至上のこの情熱、この矜持。

 開場時間となった。粉雪の舞う中、ドアマンが長いケープをさっとひるがえして扉を開けるや、待ちわびたゲストが次々に深紅と金の世界へと誘われてゆく。その夜のオペラ「ファルスタッフ」は、艶やかなバリトンと、熟練のオーケストラによる演奏が見事に融合し、私は脳髄が溶けて流れ出るような官能の世界に浸った。

 【フィレンツェ】 数日後、ヴェルディ生誕200周年に沸くミラノから、ルネサンスの都、フィレンツェへと電車で向かった。

 アルノ川にかかるポンテ・ヴェッキオを渡り、そぞろ歩いていたところ、ちんまりとしたなんとも言えずチャーミングな佇まいの教会が目に入り、ふらりと立ち寄ってみた。

 かなりの年月を経たであろう古式ゆかしきパイプオルガンを見るともなく眺めていると、教会内で作業していた男性が突然話しかけてきた。

 「あのオルガンを弾いてみたいですか?」

 私が答える間もなく彼は同僚の元へ行き、早口で何かをまくし立てた。やがて嬉しそうに戻ってくると「今日は音楽を奏でてはいけない日だけれど(筆者注:宗教上の理由だろうか?)、貴女だけは特別にオルガンを弾いてよいと許可が出たよ」となんともマンマ・ミーアな答えが返ってきた。教会の佇まいのみならず、そこに従事する方々のチャームもフォルティッシモ(最強)だ。

 暫し呆然としていると、その場にいた観光客らしい男女も一緒になってなんとなく呆然としている。男性の方と目が合ったので軽く会釈すると「僕たちはベルギー人で、実はオルガン製作者なんだ」と言うではないか。イタリア式オルガン研究のため、各都市を夫人と共に周っているそうだ。気づけば私たちは細い裏階段を上がり、人ひとりがやっと座れるスペースのオルガン鍵盤前に腰を下ろしていた。

 男性は嬉々としてストップを操作する。女性はその様子をカメラに収めてゆく。スカラ座で聴いたばかりのファルスタッフ、椿姫、アイーダ、運命の力、リゴレットのアリアなど、ヴェルディに因んだ即興パラフレーズを気ままに弾く私の演奏に合わせて、倍音を大きく効かせたり、愛らしいフルートの音などを引き出してくれて、教会はオペラ王の世界に染まった。みな、ときを忘れた。

 陽が傾き始め、私たちはようやく教会を出た。そして「よい旅を」と笑顔で握手を交わしてそれぞれの方角に別れた。帰り途、ベルギー人ご夫妻の名前も聞かないままだったことにハッとしたが、9年経った今でも彼らと過ごした時間を鮮明に思い出すことができる。だから旅は素晴らしい。

 このエッセイを書くにあたり、改めてフィレンツェの地図をなぞったところ、ポンテ・ヴェッキオをピッティ宮殿の方向へ渡りきったところにある教会が、おそらく前出の場所だろうと見当がついた。今年、再訪することを、再訪が叶うことを切に願っている。

2022/2/27
 

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