パリ五輪で、柔道男子66キロ級の阿部一二三選手(神戸市兵庫区出身)が2連覇を果たした。日本男子柔道の五輪連覇は60キロ級で3連覇した野村忠宏さんらに続いて5人目だ。兵庫県出身者が五輪で2個目の金メダルを手にするのは、個人・団体を通じて初の快挙である。地元出身選手の活躍を喜び、拍手を送りたい。
妹で女子52キロ級の阿部詩選手は、2回戦でまさかの敗退となった。期待された兄妹による2連覇はならなかったが、2人で厳しい練習に耐えてきた道のりは称賛に値する。
一二三選手は「最高の思い」と喜びつつ「妹の分まで頑張らないと、という気持ちだった」と詩選手への思いを口にした。妹の敗退という動揺を抱えながらも、冷静に初戦の2回戦から快勝を重ねた。ブラジルのリマ選手との決勝では技ありを奪った後、袖釣り込み腰で試合を決めて圧倒的な力を見せつけた。
得意の担ぎ技に加えて前回の東京五輪後に磨いた足技も生かし、全体を通して安定感のある堂々とした闘いぶりだった。畳の上での立ち居振る舞いには風格を感じさせた。
20歳で世界選手権を制し、2度の連覇を含む4度の優勝をしてきた。国際大会では2019年夏の敗戦を最後に連勝を続けている。五輪での連覇も成し遂げ、最強の柔道家であると自ら証明したと言えよう。
無類の強さは努力でつかんだものだ。体が小さかった小学生のときから自主練習を重ね、その後に進学する神港学園高校に出稽古に通った。金メダリストとして頂点を極めた後も厳しい練習に耐えてきた。
柔道に全てを懸けてきた点では、詩選手も同様だ。東京五輪後に両肩の手術を受け、リハビリにも励みながら王者の強さを保ち続けた。
だがパリでは、詩選手を徹底的に研究したウズベキスタンのケルディヨロワ選手に一瞬の隙を突かれた。誰もが目を疑う番狂わせに勝負の厳しさ、怖さを痛感させられた。ケルディヨロワ選手は母国に女子選手初の金メダルをもたらした。その意味でも五輪史に残る試合となった。
26歳の一二三選手は五輪4連覇という目標を公言する。「ロサンゼルス五輪で、兄妹で金メダルを取るために切磋琢磨(せっさたくま)していく」と誓った。どこまで強くなるのか。さらなる成長を楽しみに見守りたい。
開催国のフランスは東京五輪の混合団体で日本を破った柔道の強豪国で、日本よりも競技人口が多い。戦前、その普及に尽力したのは姫路出身の川石酒造之助(みきのすけ)だった。「フランス柔道の父」と呼ばれる。パリ五輪を機に、柔道の魅力が改めて世界に伝わり、両国の文化交流の歴史に光が当たることが望まれる。