田畑も庭先も土と枯れ草の色が目につく冬。花の季節はとうに過ぎたが、丹波篠山市古市の古市駐在所前には、何十もの鉢が整然と並ぶ。土と茎、わずかな葉だけで花はないが、秋には住民から「花の駐在所」として親しまれる。門外不出とされる同市特有の「お苗菊」を育てているからだ。(秋山亮太)
■辻本さんと家族「笑顔の花を広げたい」
同駐在所は、2015年から辻本宗也さん(60)が勤務。篠山署の管内では最もベテランの「駐在さん」だ。隣の三田市出身で、若い頃から丹波篠山にはよく訪れていた。妻の理絵さん(54)とともに「着任が決まったときにとても喜んだほど好きなまち」だという。
駐在所で菊を育てるきっかけをつくったのは、三女の光さん(23)だった。市役所に就職した光さんは、観光分野を担当する部署に配属された。同市には、江戸時代から住民らに守り継がれる「お苗菊」があり、毎年秋には「丹波篠山市菊花同好会」による菊花展が開かれている。観光の仕事が縁となり、光さんは同好会に参加するようになった。その流れで理絵さんも誘われ、お苗菊を育て始めた。
それまで本格的な花き栽培の経験はなかったという理絵さん。月1回の講習会に通って伝統のノウハウを学び、初年は4鉢を菊花展に出した。自身の花もきれいに咲いたが、熟練者の菊は格が違った。土壌や環境の追究、栽培過程での細かな調整。その努力で生まれる美に感動し、「魅力に引かれていった」という。
2年目から鉢を徐々に増やしていった。宗也さんも休みの日に、力仕事の土づくりを担ったり、暑さ対策の日よけを手作りしたりと、菊の世話をサポート。仕事の合間でも気になった脇芽をつむなど、わが子のように愛情を注いだ。
鉢はどんどんと増え、昨年は約50鉢に。花の季節には多くの住民が見に訪れるようになった。「通るたびに花を褒めてもらえる。菊花展から戻ってくるのを心待ちにしてくれる人もいて、うれしかった」と理絵さん。宗也さんも「地域の文化に親しめて楽しい。お苗菊のおかげで、親しみやすい駐在所になった」と目を細める。
市外へ異動になれば「秘蔵っ子」の菊ともお別れとなる。「それまで家族で育て続け、地域に笑顔の花を広げたい」。春を待つ鉢を見つめ、宗也さんと理絵さんがほほ笑んだ。























