思い出の鎧駅に降り立った河合美智子さん(本人提供)
思い出の鎧駅に降り立った河合美智子さん(本人提供)

 但馬への移住を考えたきっかけは2015年、豊岡市の出石永楽館であったイベントだが、地域とのご縁でいうともっとずっと前から始まっている。でも私はしばらくの間、それに気付かなかった。

 1996年の夏、NHK連続テレビ小説「ふたりっ子」の撮影で、現香美町の鎧駅を訪れた。当時の情景は、今でもはっきり目に浮かぶ。ただ、連れられて来ていたので地理があやふや、地図上のどこかが分かっていなかった。

 「香住の鎧駅」は強く印象に残ったものの、当時は但馬という概念もないから香住と豊岡をそれぞれ全く別の場所として認識してしまった。人間の脳は不思議なもので、違うと思い込むとなかなかつながってくれない。

 移住して半年がたった19年の春、最初に住んだ豊岡市街の賃貸マンションから車を走らせたら、たったの40分で鎧駅に到着し「こんなに近かったの!?」と笑っちゃうほど驚いた。

 その後「撮影のとき実家を支度部屋として提供したんですよ」という方や「母が香住のイベントで河合さんのヘアメークをしたと聞いています」なんていう方にもお会いして、ぼんやりモノクロになりかけていた思い出もくっきりカラーで次々とよみがえった。

 いまさらですが、当時お世話になった香住の皆さま、本当にありがとうございました。

 さて、久しぶりに鎧駅を訪ねてみた。地下通路から向こう側に渡る。これぞ風光明媚(めいび)という絶景は、30年前とちっとも変わっていなかった。

 写真を撮って帰ろうとしたら、タイミングよく鳥取行きの列車がやってきた。ディーゼルの独特なエンジン音とにおいにテンションが上がり主人と2人、子供のように手を振った。

 しばらくすると、停車した運転席の窓が開き、女性の運転士さんが「今度は乗ってくださいね~」と笑顔で声をかけてくれた。えええー!こんなスペシャルなふれあい、都会ではありえない。興奮した私たちがさらにブンブン手を振ると、今度は乗客の外国人カップルも手を振り返してくれて、なんともいえない幸福感に包まれた。

 実は今年のゴールデンウイーク、初めての「鎧地区の海を泳ぐこいのぼり」を楽しんだ。「道の駅あまるべ」に車を止め、香美町の餘部駅と鎧駅を列車で往復したのだ。いつもは静かな無人駅がにぎわっていて、それはそれで新鮮だった。今年は鎧駅のすてきな思い出が二つも増えてうれしい。次はもっと長い距離、列車の旅を計画してみよう。