神戸市須磨区の林産婦人科(藤井治子院長)が、妊娠・出産・産後の全ての時期を通して母子や家族を尊重する体制の構築に向けた取り組み「国際出産イニシアティブ(ICI)」の認証を取得した。国内10例目で、関西では初。同院は100年以上の歴史を持ち、藤井院長は「これからも『産み育てる力』を応援し、母子が健やかに幸せに過ごせるよう寄り添いたい」と話す。(広畑千春)
■医療や食事、人員体制…12のステップ
ICIは、2018年に国際産婦人科連合(FIGO)や国際小児科学会(IPA)など5団体が創設した枠組み。世界保健機関(WHO)のガイドラインに基づき、安全な医療はもちろん、衛生管理から、栄養のある食事、院内の人員体制に至るまで「12のステップ」を定め、母子の尊厳を守り、産前産後を通じたケアの質を高めることを目的とする。
世界30カ国以上で100超の助産院や医院、総合病院などがICIに参加。日本では昨年9月、長野県のクリニックが認証第1号となった。
■一歩間違えば
林産婦人科は、1918(大正7)年に開業。2代目院長の林弘平氏は出産時の呼吸法「ラマーズ法」の普及に尽力するなど地域に根付いてきた。
一方、大阪市出身の藤井院長はシングルマザーとして障害がある息子を育てながら、母体救命救急を推進する京都市内の産婦人科の副院長を17年間務めた。
子育てと仕事の両立や、子どもの発達に悩み、「一歩間違えば自分も、虐待やネグレクト(育児放棄)に陥ったかもしれない」と藤井院長。だからこそ、「弱い立場の女性や母親に寄り添い、女性と未来の子どもの健康を守りたい。それは支えてくれた人や価値観を変えてくれた息子への恩返しでもある」と語る。
そうした中、2023年に同院の事業承継方針を知った。自然なお産を大切にしてきた姿勢にも共感。24年4月に4代目院長に就任し、「女性がもともと持っている『産む力』を大切に育みたい」とICIの認証取得にも取り組み、今年6月末に認証された。
■「産活」を訴え
林産婦人科が力を入れていることの一つが妊娠中の指導だ。例えば、日本では妊娠中の女性の多くがビタミンDや鉄、亜鉛などのミネラル不足状態にあるといわれており、栄養の補充療法にも力を入れる。
藤井院長は「婚活、妊活は一般的になってきたけれど、私たちは『産活』を訴えている。いわゆる十月十日(とつきとおか)の間に、母親が赤ちゃんに与えてあげられるものはたくさんあるはず」とし、「幸せなお産の体験は、メンタルヘルス(心の健康)や育児、子どもの成長を助け、産後うつや虐待防止にも役立つ」と話す。
さらに見据えるのは、「支える側」へのエンパワーメント(力づけ)だ。24時間態勢での勤務や訴訟リスクなどから敬遠され、産科医の減少や高齢化が課題となって久しい。
「病を治す=医療とするなら、産科は医療という枠には収まりきらない」と藤井院長。「生命が宿って生まれるのは、本当に神々しく幸せな瞬間。それに立ち会える喜びは言葉にできないし、産科医しかできないことが数多くある。ICIの取り組みを通じ、産科に携わる全ての医療従事者の尊厳も取り戻していきたい」と話した。























